Sex, Ecology, Spirituality: The Spirit of Evolution(Part Two) 

鈴木 規夫

Chapter Two: The Pattern That Connects


Nature of the Pattern


前章では、Sex, Ecology, Spirituality: The Spirit of Evolution(SES)という作品が、Holon(whole/part)という概念を基盤として世界をとらえなおすことをとおして、現代という文脈において妥当性をもつことのできる「神聖なる秩序」を構想するために創造された作品であることを確認した。作品の問題意識をこのように設定したうえで、第二章では、Ken Wilber(KW)は、Modern Systems Scienceの知見を援用しながら、「神聖なる秩序」が具体的にいかなる法則(tenets)により構成されているのかについて論述をしている。


尚、ここでの議論を正しく理解することができるために、読者は下記の事項を留意する必要がある。


ひとつは、ここで説明されている法則が、あくまでも、"tenets"として提唱されているということである。"tenet"とは、ある共同体において真実として信奉されている事項を意味することばであるが、そこには、それらの事項を完全なる真実として確立するための証拠が必ずしも充分に確保されているわけではないという意味がこめられている。実際、後に、Kosmic Karma and Creativityにおいて、KWがあらためて強調するように、インテグラル思想は、世界を構成する法則性を、歴史の過程のなかでくりかえされることによって確立された"Probability Waves"(習慣的方向性)として認識する。つまり、そこには、これまでに蓄積された完全ではありえない観察と分析にもとづいて、世界の習慣的な方向性として暫定的に下記のような結論がくだされえるという意味がこめられているのである。読者は、SESの重要な洞察である「20の法則」("twenty tenets")の議論が、こうした発想により支えられたものであることを確認する必要があるだろう。


もうひとつは、ここで説明されている法則が、物質領域(the physiosphere)・生物領域(the biosphere)・意識領域(the noosphere)という複数の階層領域を横断して機能するものとして提唱されているということである。また、これらの法則は、インテグラル思想において"the Big Three"と形容されている価値と経験の三領域("I"・"We"・"Its"、あるいは、「真」・「善」・「美」)を横断するものとして提唱されている。Its領域の研究に特化したModern Systems Scienceの成果を利用するうえで、KWは、それを他領域の理解に援用することが、それらの領域の独自性を侵害・歪曲する危険性を内蔵することを認識したうえで、適宜、修正をくわえて、これらの法則が上記の各領域に適用することが可能となるようにしている。


Twenty Tenets


1. 世界は、「物体」や「過程」ではなく、Holonにより構成されている(Reality as a whole is not composed of things or processes, but of holons)


Kosmic Karma and Creativityにおいてあらためて強調されるように、世界(Kosmos)は、過去から将来へと進展する歴史的過程のなかで、常に、過去を継承する全体であると同時に、また、将来の要素として継承される部分であることを自己の構造的な特徴とする。全体は、対象化された瞬間に、全体としての立場を喪失して、対象化をしている全体の部分となる。


こうした歴史的過程における、文脈の無限の膨張は、例えば、「真実」や「意味」の構築や経験という、本質的に文脈との関係性のなかで成立する人間の意識領域の活動にたいして、多大な影響を及ぼすことになる。意味の成立を可能とする文脈が常に膨張しつづけるものであるということは、必然的に、個々の現象の最終的な意味の確定を可能とする窮極の文脈を把握することができないことを意味する。そうした窮極の文脈を把握することができたと意識した瞬間、そうした意識そのものがあらたな文脈を構築することになり、結果として、過去の文脈を前提として確立されていた意味はあらためて脆弱化されてしまうのである。


Deconstructive Postmodernismの成果とは、文脈の無限性を照明することをとおして、窮極の文脈を希求する人間の根源的衝動を実現することが実際には不可能であることを提示したことにあるといえるだろう。とりわけ、特定の人間により窮極の文脈が恣意的に規定されるときに、しばしば、絶対的な権力の掌握と行使が行われることを鑑みると、Deconstructive Postmodernistsのこうした問題意識は非常に重要なものとして認識される必要があるのである。


ただ、Deconstructive Postmodernismの問題とは、文脈の無限性を照明することが、実際には、必ずしも、意味の構築と経験の可能性を人間から剥奪するものではないことを看過したことである。KWが指摘するように、文脈は、また、一定の持続性を発揮することをとおして、人間に意味の構築と経験を可能とする。歴史的過程のなかでくりかえされることをとおして世界の持続的な習慣的方向性として確立された文脈は、対話空間で討議されている具体的な問題・課題の解決において関係者に意味を構築・経験することを可能とするだけの有効な基盤として機能することはできるのである。つまり、文脈が無限に膨張することを照明することは、必ずしも、文脈の無意味性を証明することにはならないのである("That the system is sliding does not mean that meaning cant be established, that truth doesn't exist, or that contexts wont hold still long enough to make a simple point")(p. 47)。


2. Holonは4つの基本的な能力を発揮する:自己保存・自己適応・自己超越・自己溶解(Holons display four fundamental capacities: self-preservation, self-adaptation, self-transcendence, and self-dissolution)


A. 自己保存(self-preservation)


全てのHolonは、自己の個性(individuality)・全体性(wholeness)・自律性(autonomy)を保持する自己保存能力を発揮する。確かに、Holonは、常に相互関係性のなかで存在しているが、しかし、相互関係性により完全に定義されているわけではない。それは、個としての特有の形態・習慣・構造を有しているのである(agency)。

B. 自己適応(self- adaptation)

全てのHolonは、自己をとりまく相互関係に部分として参画する適応機能を発揮する(communion)。自律性(agency)と関係性(communion)という対極的なダイナミズムは、Holonの存在を可能とする同等の価値を有する機能である。これらの対極的ダイナミズムのうち、ひとつの影響が過剰になるとき、Holonの存在可能性は、深刻に脅かされることになる(pathological agencyとpathological communion)。


C. 自己超越(self-transcendence)


自己超越において、Holonは、創造的な垂直的発達を遂げることをとおして、質的に高次の段階において、あたらしい形態の自律性(agency)と関係性(communion)を構築することになる。こうした垂直的変容は、水平的変化と比較して、明確な非連続性(discontinuity)により特徴づけられる過程である。自己超越機能とは、自己の既存の構造を超越して、斬新な性質(novelty)を付けくわえるHolonの構造的特徴のことを意味する。


D. 自己溶解(self-dissolution)


Holonは、創造的な垂直的発達だけでなく、また、垂直的な溶解・崩壊をする可能性を内蔵している。こうした溶解現象が発生する場合、普通、その過程は、垂直的な発達過程を逆方向にたどることになる。

Holonの存在を規定する上記のダイナミズムは、水平的な対極性と垂直的な対極性として、Holonの内部に恒常的な緊張を醸成することになる。水平的には、自律性(agency)と関係性(communion)の緊張を、そして、垂直的には、構造化(build up)と崩壊(break down)の緊張を醸成しているのである。そして、このことは、Holonに成長と病理、そして、発達と退行の源泉である構造的なインバランスを賦与することになるのである。


3. Holonは創発する(Holons emerge)


あたらしく創発したHolonの特徴は、構成要素の特徴にもとづいて完全に説明しつくすことはできない。そこには、構成要素には存在していない斬新性(novelty)が賦与されているのである。高次のHolonの性質を低次のHolonの性質で説明しようとするとき、そこでは必ず前者を特徴づけていた独自性が看過されることになるのである。


Holonのこうした性質は、必然的に、世界を未決定性(indeterminacy)に特徴づけられた空間とすることになる。即ち、創造性とは、過去において存在しなかった未曾有(unprecedented)の現象を創造することであり、結果として、そのことは、世界を過去に完全に規定されないものとして成立させることになるのである。


もちろん、これは世界が過去に全く規定されないということ意味するものではない。Kosmic Karma and Creativityにおいて指摘されるように、歴史的過程において長期的・継続的にくりかえされてきた活動は、世界の確固とした習慣として確立され、それらは、将来にたいして、しばしば、決定的な影響を及ぼすことになる。ここで主張されているのは、あくまでも、そうした事実を認識したうえで、尚、過去の束縛を超越する機能がHolonに存在しているということなのである。


4. HolonはHolarchyとして創発する(Holons emerge holarchically)


高次のHolonは低次のHolonを自己の構成要素として抱擁するかたちで成立する。高次のHolonは、独自の統合の秩序を構築・発揮することにより、構成要素を有機的な相互関係のなかに統合するのである(Alfred North Whitehead:"The many becomes one and are increased by one")。ここで留意するべきことは、あくまでも、高次のHolonが低次のHolonを抱擁するのであり、低次のHolonが高次のHolonを自己の構成要素として抱擁することはありえないということである。Holarchyとは、こうした序列性に特徴づけられている構造であることが確認される必要がある。


5. 高次のHolonは、低次のHolonを超越・内包して創発する(Each emergent holon transcends but includes its predecessor(s))


上記のように、高次のHolonは低次のHolonを自己の構成要素として自己の統合の秩序のなかに抱擁するかたちで成立する。つまり、これは、高次のHolonが、低次の Holonの基本的な構造と機能("basic structures and functions")を抱擁しながら、また、その孤立性・独立性(separateness・isolatedness・aloneness)ゆえに維持することのできた構造と機能("exclusivity structures and functions")を否定することを意味する。低次のHolonは、高次のHolonに抱擁されることをとおしてもたらされる質的に高度の自律性(agency)と関係性(communion)のもとに統合されていくのである。


高次のHolonは、構成要素である低次のHolonにたいしてDownward Causation(下降影響)を発揮することをとおして、後者が内蔵している自律性(自己決定能力)を限定することになる。そこでは、高次の Holonの視点から低次の Holonを見るとき、後者は前者の内部(inside)に存在するものとして経験される。そして、低次の Holonの視点から高次の Holonを見るとき、後者は前者の外部(outside)に存在するものとして経験される。Downward Causationとは、全体として位置づけられたHolonが、部分として自己の内部に位置づけられたHolonにたいして発揮する影響であるということができるだろう。


6. 低次は高次の可能性を規定する・高次は低次の方向性を規定する(The lower sets the possibilities of the higher; the higher sets the probabilities of the lower)


高次の階層が低次の階層を超越するというとき、それは必ずしも高次の階層が低次の階層を規定する法則や習慣を侵犯することができることを意味するものではない。確かに、高次の階層は低次の階層により支配されるものではない。しかし、高次の階層は低次の階層を無視することはできないのである。低次は、高次の可能性の枠組(範囲)を設定する。高次は、そのなかで自己の創造性を発揮していくことになるのである(例:人間の肉体は重力の法則の影響のもと機能する。そして、人間の精神は象徴の法則の影響のもと機能する。低次の階層が破壊されるとき、高次の階層も破壊されることになる)。


7. 階層構造が内包する階層の数が、階層構造の「深度」を決定する。また、特定の階層段階に存在するHolonの数を「範囲」と形容する(The number of levels which a hierarchy comprises determines whether it is 'shallow' or 'deep'; and the number of holons on any given level we shall call its 'span')


垂直線上に存在する階層数が、Holon構造の深度を決定する。つまり、多くの垂直的な階層を内包していればいるほど、Holon構造はより「深い」ということができるのである。そして、水平線上に存在するHolonの数は、Holon構造の範囲を決定する。つまり、多くの個数が存在していればいるほど、Holon構造はより「広い」ということができるのである。


上記の測定基準を明確に設定することは、人口規模(「範囲」)こそが豊かさを規定する基準であると誤解する、今日、世界的に蔓延する認識の混乱を回避するために必須となる。こうした「質」と「量」の混乱が発生するとき、「質的判断基準」が「量的判断基準」に掌握されてしまうために、関係者は、量的判断基準にもとづいて質的判断基準をすることになるのである。そこでは、必然的に、規模の肥大化を善とする量化の発想が支配的となる。つまり、そこでは、質的な進化(豊かさの秩序)というものが、実際には、「範囲」ではなく、「深度」により規定されるものであるということが看過されることになるのである。


8. 高次の段階は、「深度」を深め、また、「範囲」を狭める(Each successive level of evolution produces GREATER depth and LESS span.)


高次の階層は、低次の階層を自己の構成要素として包含して成立する。上記のように、進化は、包括的な秩序の確立という統合能力の向上の過程として定義しえるものであるが、このことは、必然的に、進化というものが、階層構造の「深度」(構造内に包含される階層数)の増大と階層構造の「範囲」(深度を実現した構造の総数)の減少をもたらすものであることを意味する。


Addition 1. Holonの深度の深さは、Holonの意識の深さに比例する(The greater the depth of a holon, the greater its degree of consciousness)


これは、世界の進化が意識の進化であることを意味している("The spectrum of evolution is a spectrum of consciousness")。


尚、各Holonは、自己の「意識構造」、あるいは、「解釈構造」をとおして、世界を翻訳する。つまり、各Holonは、あくまでも自己の視点が認知することのできる対象のみを認識することができるのである。その意味では、認識とは、本質的に、世界をありのままにとらえるのではなく、自己の構造的能力に応じて、無数の刺激を選択・組織する創造的な行為であるということができるのである(enaction)。そこでは、あくまでも、認識主体の統合性(coherency)、あるいは、自律性(agency)を動揺させないかたちで、認識活動が展開する。普通、認識主体の解釈体系に対応しない刺激は、あたかも存在しないものであるかのごとく、認知さえされないのである。インテグラル思想では、こうした既存の意識構造の統合性を維持するかたちで成立する認識を"translation"(「翻訳」)と形容している。


しかし、Holonは、既存の意識構造を利用する水平的な解釈能力だけでなく、また、既存の意識構造の創造的破壊をとおして、質的に高次の意識構造を確立する垂直的な自己超越能力を有している。こうした過程をとおして、Holonは、あらたな形態の統合性(coherency)と自律性(agency)を確立することになるのである。結果として、そこでは、過去の意識構造がその存在を認知することができなかった質的に高次の世界が開示されることになる。インテグラル思想では、こうした既存の意識構造を超越するときに成立する認識を"transformation"(「変容」)と形容している。これは、"translation"の可能性を規定しているHolonの構造的な特性――"Deep Structure"、あるいは、"Deep Features"――を変容することを意味する。進化とは、窮極的には、"translation"の蓄積としてではなく、"transformation"をとおして可能となるものである。


9. あるHolonを破壊するとき、そのHolonを自己の存在基盤として内包する全ての高次のHolonが破壊されることになる。しかし、そのHolonの低次に存在するHolonは破壊されない(Destroy any type of holon, and you will destroy all of the holons above it and none of the holons below it)


これは、あるHolonの高度(node)を把握するときに有用となる思考実験の方法である。あるHolonが破壊されるとき、そのHolonを自己の存在基盤として内包する高次のHolonは必然的に破壊されることになる。逆に、そのHolonを自己の存在基盤として内包していないHolonは破壊されることはない。この場合、これらのHolonは低次のHolonとして理解されるのである。


こうした洞察を敷衍して、KWは下記の概念を提唱する。

  • "fundamental/fundamentalness"(基礎的重要性)
  • "significant/significance"(質的重要性)

深度の低いHolonは、多様なHolonの構成要素として機能する。つまり、そのHolonは、世界の成立のために基礎的な重要性を発揮しているのである。しかし、そうしたHolonは、自己の内部に自らの構成要素として比較的に限定的な世界(階層)を包含する存在でもある。その意味では、そうしたHolonは、広範囲の世界(階層)を包含するHolonと比較して、質的に低度の重要度を有する存在であるといえる。


逆に、深度の高いHolonは、多様なHolonの構成要素として機能しないために、世界の成立のために重要なものではない。世界に存在する多数のHolonは、そのHolonの存在を必要としてはいないのである。その意味では、このHolonは、高度の深度を所有しているがゆえに、また、低度の基礎的な重要性しかもたないものと理解することができるだろう。しかし、また、そうしたHolonは、広範囲の世界(階層)を包含するものであるがゆえに、質的に高度の重要性をもつ存在であるといえるのである。


10. Holonは並行的に進化する(Holons coevolve)


Holonは、常に自己をとりまく生存環境をまきこみながら並行的に進化を遂げる。上記のように、Holonは外部のHolonとの相互関係のなかに存在している。進化の単位(unit)は、常に、こうした複数のHolonを包含した関係性なのである。個人(individual・micro)と集合(collective・macro)、あるいは、Individual HolonとSocial Holonは、常に、有機的に統合されたひとつの単位として質的な変容を遂げるのである。


11. Individual Holonは、自己を構成する各階層においてSocial Holonとの関係性(交換・交感)を維持している(The micro is in relational exchange with the macro at all levels of it depth)


これは、Individual Holonの構造が、多数の階層を包含する複雑なものとなるほど重要となる("compound individuality")。例えば、人間は、少なくとも物質領域・生物領域・意識領域という垂直的に存在する三階層において、外部との交換・交感の関係を維持している。物質階層においては、重力・日光・大気等の外的な生存環境に存在する諸々の要素を交換・交感している。生物階層においては、共同体を共有する他者との感情的・性的な交換・交感だけでなく、また、生態系との関係性のなかに存在している。そして、意識領域においては、文化的生物として他者と諸々の象徴を交換・交感することをとおして、共同体の文化的歴史の継承・維持・発展の役割を果たすことになる。


いずれにしても、人間のみならず、あらゆるHolonは、複数の階層を包含する"compound individual"(複合的存在)であり、その持続可能性を維持するためには、各階層において外部との健全な交換・交感関係が維持される必要があるのである。


12. 進化は方向性を有している(Evolution has directionality)


A. 進化は複雑性を向上させるかたちで進展する(Evolution tends in the direction of increasing complexity)


進化の本質は、構成要素を蓄積する量的な複雑化ではなく、むしろ、高次の秩序を確立することをとおして、構成要素を組織化する質的な複雑化にある。また、こうした質的複雑化は、多様な構成要素を包括的な秩序のもと統合するという意味において、Holarchyを全体として単純化することにもなる。


B. 進化はHolonの独自性と統合性を向上させるかたちで進展する(Evolution tends in the direction of increasing differentiation/integration)


進化は、Holonの全体(whole)としての独自性と部分(part)としての統合性を向上させるかたちで進展する。例えば、個性化(individuation)と形容される人間意識の発達過程は、個人に自律性(agency)と関係性(communion)を質的に深化する過程であると理解される。関係性とは、先ず差異化された主体の存在を前提として成立するものである。進化とは、水平的には解決することのできない対極間の緊張を、両極を質的に高次の階層において構築しなおすことにより、解決しようとする過程なのである。


C. 進化はHolonを組織化・構造化させるかたちで進展する(Evolution tends in the direction of increasing organization/structuration)


進化はHolonの組織的・構造的な複雑性を向上させるかたちで進展する。また、進化の過程は、ある発達段階における水平上の複雑化が完了すると、高次の発達段階を志向する垂直的な複雑化のダイナミズムを創発することになる。


D. 進化はHolonの自律性を向上させるかたちで進展する(Evolution tends in the direction of increasing relative autonomy)


進化はHolonの世界にたいする抱擁能力を拡大する。つまり、進化の過程をとおして、Holonは、それまで自己の外部に経験されていた影響を自己の内部に抱擁・統合することにより、それらの支配を克服するのである(自己の外部にあるものを支配することはできない)。結果として、複雑化は、外部の生存環境の変化に影響されることなく、自己の内部環境を維持する責任能力を向上することになる。


例えば、人格構造の発達は、個人に自己の感情生活を意識的に管理することを可能とする。そこでは、自己の内的領域が外部領域から明確に峻別され、内省能力を基盤として操作されることになるのである(逆に、幼児は、母親との精神的な融即状態にあるために、自己の感情生活を峻別して、意識的に管理することはできない)。


E. 進化はHolonの志向性を向上させるかたちで進展する(Evolution tends in the direction of increasing telos)


Holonの構造(deep structure)は、Holonの志向する終着点を設定する。結果として、Holonは、自己の構造が設定する最終的な目的を志向して自己実現をこころみていくことになるのである。


各Holonは、救済を約束する終着点を提示することをとおして、自らを自己実現の活動へと衝き動かすことになる("Atman Project")。進化とは、既存の構造に内在する目的を成就することをとおして、さらに高次の階層の目的に目覚めていく果てしない過程であるということができるだろう。Holonは、本質的に、自己の構造が内在する目的を絶対化しようとする全体としての衝動と自己の構造が内在する限定性を超越しようとする部分としての衝動を内包している。必然的に、救済は、それが実現された瞬間に絶対的価値を喪失して、また、彼方に見出されることになるのである。その意味では、Holon構造とは、本質的に、自己を超越する文脈を志向することをとおして、自己を動揺させる衝動を内蔵するものであるということができるだろう。


KWの指摘するように、世界に存在する様々な療法(therapy)は、特定の文脈を擁護することをとおして、それが開示する独自の救済(治癒)の実現へと人間を動機づける。しかし、皮肉にも、こうした救済と治癒を志向するこころみ(理論と方法)が有効なものであるとき、最終的には、そこで獲得された救済と治癒は絶対性・価値性を喪失することにならざるをえない。実際に救済と治癒が実現されるとき、それらは、既に、人間の追及の衝動を喚起することができるだけの神秘性(numinosity)を喪失しているのである。その意味では、療法の価値とは、窮極的には、自己の妥当性を否定する能力にあるといえるのである。"The Spectrum of Consciousness"以降、KWが、思想活動をとおして繰り返してきたあらゆる方法論は、独自の真実を開示することができるがゆえに、また、独自の限界を内包することにならざるをえないという主張は、こうした洞察を基盤としているのである。


発達心理学者の調査・研究が示唆するように、Vision Logic(VL)と形容される意識構造は、人間の行動が本質的に文脈("preanalytic vision")を限定・設定したうえで成立する意味構築活動であることを認識する。つまり、そこでは、意味構築という人間の根源的な行動が、意識的・無意識的に世界を矮小化することにより可能とされるものであることが認識されるのである。結果として、VL段階においては、個人は自己の意味構築活動そのものを対象化して、その成立を可能とする前提(文脈)を認識しようとする。それは、自己の意味を意図的に脆弱化(subvert)しようとする自己破壊のこころみであるといえるが、しかし、それは、また、自己をより包括的な文脈のなかに再構築することを志向する自己超越のこころみであるともいえる。KWのインテグラル思想とは、VLという意識発達の先端において開示されるこうした人間性にたいする洞察を基盤として、世界を理解しようとするなかで創造された構想であるということができるのである。


参考資料

Brad Reynolds (2006). Embracing reality: The integral vision of Ken Wilber. NY: Jeremy P. Tarcher.
Brad Reynolds (2006). Where's Wilber at?: Ken Wilber's integral vision in the new millennium. St. Paul, MN: Paragon House.
Ken Wilber (1995/2000). Sex, ecology, spirituality: The spirit of evolution (Second Edition). Boston: Shambhala.