Sex, Ecology, Spirituality: The Spirit of Evolution(Part Three) 

鈴木 規夫

Chapter Three: Individual and Social *1


Micro and Macro


真に包括的・統合的に世界を理解するために必要となるのは、Individual Holon(microworld)とSocial Holon(macroworld)を並存するHolonとしてとらえることである。これらは、あくまでも、並存するものであり、ひとつの軸上に位置づけられるものではない。Ken Wilber(KW)が指摘するように、規模を判断基準として設定することをとおして、集合を個人を構成要素として成立する上位のHolonとして規定することは、「規模」(size)と「範囲」(span)を絶対化する量化の発想を助長することになる。この問題意識は、SESの主要主題であるEcologyについて探求するうえで、とりわけ重要となる。


例えば、生態系を個人を構成要素として形成される上位のHolonとして設定する発想は、量(quantity)と質(quality)の混同の典型的な例といえるだろう。生態系が個人を構成要素として存在しているなら、個人の破壊は必然的に生態系の破壊をもたらすはずである。しかし、実際には、そうではない。例えば、生態系の構成要素として位置づけられている人類の絶滅は、生態系の成立を不可能にするような破壊的な影響をあたえることはないのである。


Individual HolonとSocial Holonの関係を把握するうえで重要な事項として、KWは次のように説明する。


Social Holonとは、Individual Holonの階層のある段階に存在するものではない。Social Holonとは、Individual Holonをとりまく外部環境として、あらゆる段階に存在するものなのである。拠って、Individual HolonとSocial Holonの関係を把握するときに必要とされるのは、下記の作業である:

  • Individual HolonのHolarchyを構築すること
  • Individual HolonのHolarchyの各段階において、Individual Holonの存在を可能とするSocial Holonを構想すること

KWは、包括的・統合的な世界認識のためには、進化の各領域(physiosphere・biosphere・noosphere)において、こうした視点を適用することが必要となることを指摘する。 *2



Gaia


Lynn MargulisとJames Lovelockにより定義された専門的な意味において、Gaia Systemは、惑星上に存在する最大の範囲を有する生物領域(Biosphere)のSocial Holonである。惑星上に存在する原核細胞(prokaryote)間の相互関係の織物として、Gaia Systemは、上位の深度を有する生物の存在を保証するのである。*3 Gaia Systemは、最も浅い深度を有しているがために、最も広い範囲を有し、そして、最も高い基礎的重要性("fundamental value")を有するのである。その意味では、Gaia Systemとは、惑星上のあらゆる生命体の構成要素として共有・包含される、根源的な基盤といえるのである。この基盤の喪失は、必然的に、この基盤に依存するあらゆる生命体の消失として結果することになる。


The Problem with Size and Span


今日、"Holism"(包括主義・統合主義)と形容される数々の思想は、規模(size)と範囲(span)の拡張を包括性・統合性の基準として解釈する傾向にある。結果として、こうした発想は、規模と範囲を絶対化して、それら外面的な基準において量的に大きな対象上位の存在として見做すあやまちを冒すことになる。結果として、そこでは、Physiosphere < Biosphere < Noosphereという深度の深化にもとづく秩序ではなく、むしろ、Noosphere < Biosphere < Physiosphereという深度の浅薄化にもとづく秩序が擁護されることになる。これは進化 / 深化の方向性に逆行する退行的(regressive)な発想ということができるものである。人間の救済がこうした発想にもとづいて志向されるとき、その処方は不可避的に歪なものとならざるをえない。


Same-Level Relational Exchange


複数の階層を内包するIndividual Holonは、複合的存在(compound organism)として、各階層においてSocial Holonとの緻密な交換関係に参加している。必然的に、Individual Holonの持続可能性が確保されるためには、それが内包する複数の階層の各階層において、Social Holonとの健全な交換関係が成立している必要がある。例えば、三階層を内包するIndividual Holonは、階層1・階層2・階層3の各階層においてSocial Holonとの健全な交換関係を維持する必要がある。こうした交換関係の阻害が階層1において発生するとき、上位の階層である階層2と階層3の交換関係も必然的に阻害されることになる。その意味では、階層3は、同階層(階層3)におけるSocial Holonとの交換関係のみならず、階層2と階層1におけるSocial Holonとの交換関係にも依存しているのである。


Differentiation and Dissociation, Transcendence and Repression


進化の過程は本質的に病理の可能性を内蔵している。進化は超越(transcendence)と差異化(differentiation)をとおして展開するが、これらが過剰に作用する場合、前者は抑圧(repression)(超越と継承の包括的な履行ではなく、継承の否定)を、そして、後者は乖離(dissociation)(内的・外的な調和の確立の失敗)をもたらすことになる。とりわけ、進化が意識領域("Noosphere")に到達するとき、こうした病理の可能性は非常に大きなものとなる。そこでは、Noosphere・Biosphere・Noosphereという複数の階層が内包されるために、内的・外的な統合の障害が発生する可能性が不可避的に大きくなるのである。


KWによれば、こうした病理にたいする対処としては、大別して、2種類の方法が存在するという。ひとつは、統合の失敗が発生した段階に臨時的に退行して、そこにおける障害(damage)を体験しなおすことをとおして、あらためてそれを全体性の要素として統合する作業である(regression in the service of a higher integration)。そして、もうひとつは、統合の失敗が発生した段階に恒常的に退行する作業である(regression)。ここでは、病理を発生させた構造的な成長そのものを否定することをとおして、病理を解消しようとする。


KWの指摘するように、進化とは常に尊厳(dignity)と破壊(disaster)の両方の可能性を増幅する両義的過程である。こうした両義性を認識することなく、その破壊的な側面だけに着目するとき、Big Bang以降に展開した進化の過程は、「巨大な間違い」("Big Mistake")として否定されることにならざるをえない。Noosphereの影響のもと、今日、惑星規模で展開している生態系破壊は人類の絶滅をもたらしかねない非常に深刻なものであるが、しかし、また、そうした破壊性の顕現はNoosphereの価値を全否定するものではないことに留意する必要がある。



Chapter Four: A View from Within


インテグラル思想の最重要概念であるAQAL(All Quadrants All Levels)は、世界(Kosmos)を内面(interior)と外面(exterior)、そして、個人(individual)と集合(collective)という相互に関連する領域を内包するものとして定義する。SESの出版後、AQALは、インテグラル思想という思想的文脈を離れて、多様な情報の整理を可能とする情報整理の枠組として受容されているが、ここでは、SESにおけるKWの議論を読み解きながら、あらためて、AQALという概念の意味を探求したい。


Wilber Four以降の思想的枠組の基盤として提唱されたAQALという概念を理解するうえで重要となるのが、KWが霊的探求の実践者として自己の思想的探求の中心に位置づけてきた主題である、意識進化のダイナミクスについての洞察である。


上述のように、KWは、複数の階層を内包するIndividual Holonは、複合的存在として、各階層においてSocial Holonとの緻密な交換関係に参加していることを指摘する。つまり、Individual Holonの成立のためには、それが複合的存在として内包する各階層において、Social Holonとの健全な交換関係が成立している必要があるのである。KWはこれを敷衍して、上位の階層は、自己の構成要素としての下位の階層のみならず、また、下位の階層が参加するSocial Holonの全体を継承することを意味することを主張する。*4 つまり、人間は、Physiosphere・Biosphere・Noosphereを包含する複合的存在として、自己の物質的・生物的・意識的な「境界」の内部に存在する要素だけでなく、それらが参加する関係性をも自らのなかに抱擁するのである。その意味では、インテグラル思想の人間観にもとづけば、人間は正に全世界を自らのなかに抱擁する存在といえるのである。


インテグラル思想は、AQALという概念を基盤として、世界を内面と外面の両方の視点(perspective)から理解することをこころみる。「他者」として客観的な観察対象として設定される世界を、外面の視点からだけではなく、内面の視点から理解することの可能性は、インテグラル思想においては、このように世界というものが本質的には観察主体である自己の構成要素であるという前提のもとに成立すると主張されるのである。 *5

わたしが外的な世界を知ることができるのは、外的な世界が既にわたしのなかにあるからである。わたしはわたしを知ることができるのである。他者に関する全ての知識は自己に関する知識の変奏に過ぎないのである。自己と他者は同じ生地により構成されているのであり、あらゆる瞬間において、精妙に相互に語り合っているのである。(p. 116)


意識


尚、KWが「意識」ということばを使用するとき、特有の意味がこめられていることを確認する必要がある。KWが指摘するように、意識そのもの("consciousness as such")は特定の形態で特徴づけることのできない("unqualifiable")ものである。意識は「感覚」・「衝動」・「認識」・「意図」等の形態で顕現するが、それらは、あくまでも、発達の各段階において成立する意識の形態であり、意識の本来的な性質ではない。意識とは、形態の顕現を可能とする空間――即ち、窮極的には、「空」("Emptiness")として形容されるべきものである。


Interiority and Consciousness


Individual Holonは、自己の意識構造を基盤として、特定の範囲の形態だけが顕現しえる特有の空間("opening"・"clearing")を開示する。Individual Holonは、自己の自律性(agency)の責任のもと、こうした空間の開示を行うことをとおして、自らにとり、認識可能な世界を創造するのである。つまり、意識とは、Individual Holonに、こうした自己の構造的な特性にもとづいた世界の開示を可能とする根源的な条件なのである。


下記の図表は、Individual Holonの内面領域と外面領域の対応関係を整理したものである(p. 119)。諸々の意識形態("forms of consciousness")が、具体的にどのような物理的・生物的な構造の成立と対応して成立するかを簡略的に示している。


概念(concepts)

複層大脳新皮質(Complex Neocortex)

記号(symbols)

大脳新皮質(Neocortex)

感情(emotion/image)

大脳辺縁系(Limbic System)

衝動・感情(impulse/emotion)

脳幹(Brain Stem)

認識・衝動(perception/impulse)

神経帯(Neural Cord)

認識(perception)

神経生物(Neuronal Organisms)

感覚(sensation)

前神経生物(Proto-Neuronal Organisms)

原始的感覚(rudimentary sensation)

代謝生物(Metabolic Organism)

感応(irritability)

細胞(Cells)

把握(prehension)

原始(Atoms)


インテグラル思想において意識という概念が使用されるときに留意するべきことは、それが、Holarchyの内面領域として、全階層に存在するものとして意味されているということである。左側領域(Left-Hand dimension)と右側領域(Right-Hand dimension)は、世界創造の最初の瞬間より、常に、並存するものとして理解されているのである。意識は、Individual Holonの構造的発達がNoosphereに到達するときに発生するものではなく、「空」("Emptiness")として、各発達段階において、Individual Holonの構造に対応した世界空間の開示を可能とする根源的条件として息づいているのである。


尚、この図表が明示するように、上位のHolonは、下位のHolonを超越・継承することをとおして、下位のHolonにより供給される情報を操作の対象として統合する。こうした超越と継承のダイナミクスをとおして、Individual Holonは主体的な操作の可能な領域を徐々に拡張するのである。


The Four Quadrants


Individual Holonにおける、こうした内面と外面の対応関係は、Social Holonにおいても成立している。Individual Holonは、同様の意識構造を共有する他のIndividual Holonと共同して、特定の世界空間("worldspace")を構築する。世界空間は、Individual Holonにとり、意味(meaning)をもつことのできる――即ち、対応することのできる――刺激の総和として、文化空間を構成する。つまり、文化空間とは、Individual Holonの視野に「意味の領域」("domain of significance"、あるいは、"domain of distinctions")として立ち上がる空間なのである。


Individual Holonは、無数に存在する刺激のうち、特定の範囲の刺激を認知(translate)するが、文化空間とは、そうした認知可能な刺激領域を共有する複数のIndividual Holonにより創造されるものである。Individual Holonにとり、こうした文化空間に参画するとは、こうした文化空間の外面形態である物理的空間の内部に存在することではなく、むしろ、こうした文化空間を意味の領域として体験することを可能とする意識構造をはじめとする諸々の解釈体系を自己の内部に構築することを意味する。つまり、文化空間に参画するためには、それを成立させている意識構造・価値観・世界観等を共有して、それらをとおして認識することのできる意味を内部から体験することが必要となるのである。


Criteria for Validity


AQALは、世界を内面と外面、そして、個人と集合という相互に関連する四領域を有するものとして定義する。そして、また、AQALは、これら各領域を独自の「正当性の基準」(validity criterion)を所有するものとして設定することをとおして、各基準に対応した探求の活動に従事することの必要性を強調する。


左側領域(内面領域・interior)の理解のためには解釈が、そして、右側領域(外面領域・exterior)の理解のためには観察が必要とされる。意図(intention)の領域として、左側領域の真実は、共感と対話を方法とする、解釈をとおして照明される。空間性(extension)の領域として、右側領域の真実は、主観を排除した、客観的な観察をとおして把握される。前者においては、対話に従事する参加者が自らの内的真実を歪みなく把握・報告することができるための必要条件である誠意(sincerity)が重視されることになる。後者においては、対象の外的真実を歪みなく把握・報告することができるための必要条件である理論と事象の整合性が重視されることになる。


具体的には、AQALの各領域の妥当性の基準は、下記のようにまとめられる。

  • 左上領域(Upper Left) :誠意(sincerity)
  • 左下領域(Lower Left) :文化的適応(cultural fit)
  • 右上領域(Upper Right):真実(truth)
  • 右下領域(Lower Right):機能的適応(functional fit)

主観的関係性(intersubjectivity)の領域である左下領域において基準となるのは、文化空間への適応度である。Individual Holon間の対話とは、各Individual Holonが、共同体の諸々の規範を内面化して、その規範にもとづいて意味を構築することをとおして可能となる。個人の内的真実は、共同体の規範に還元することはできないが、また、共同体の規範に依存することなしには成立することができない。個人の内的真実は、生成した瞬間、既に文化という関係性のなかに位置づけられているのである。例えば、対象関係理論(Object-Relations theory)の調査・研究が照明するように、自己を自己として認識するという人間の基礎的な認識そのものが、実際には、主観的関係性の存在を前提とするのである。左下領域においては、共感と対話を基盤として、Individual Holon間の相互理解が追求されるのである。


客観的関係性(interobjectivity)の領域である右下領域において基準となるのは、社会空間への適応度である。集合の内的領域に対応する外的形態として、共同体は、交通機構・食料生産機構・生産配給機構・政治機構等、諸々の物理的な構造物(social action system)を構築する。右下領域の視点は、物理的・生物的な存在としての共同体を俯瞰する包括的視野から、共同体の持続可能性を確保するために、組織論的な探求にとりくむ。内的領域と異なり、外的な領域においては、利用可能なものとして賦与されている資源は窮極的に有限であるために、それをどう活用(分配)するかという問題に焦点が当てられることになる。結果として、個々の行動は、ひとつの機構としての共同体に寄与するべく要素として、その機能的適応度の観点から研究されることになるのである。

尚、脚注(#28 p. 576-584)において指摘されるように、各領域は「表層真実」("surface truth")と「深層真実」("deep truth")を内包している。


左側領域("What does it mean?")

  • 表層真実("hermeneutics of the everyday")

日常生活の前提として、諸々の行動に賦与されている意味。これらの意味は、文化空間の参加者により必ずしも常に意識されているわけではないが、普通、第三者に指摘された場合、比較的に容易に認識することのできる意味である。

  • 深層真実("hermeneutics of the suspicion")

深層真実は、表層真実の背後に存在している意味である。深層真実を探求する姿勢は、表層真実がしばしば深層真実を隠蔽・歪曲するかたちで保持される傾向にあることにたいする認識を基盤として成立している。深層真実は、意識化されるとき、認識者に苦痛をもたらすものであるために、積極的に抑圧されるのである。必然的に、こうした積極的な抑圧をゆるめて、深層真実を明確化することは、普通、意識化を回避しようとする意図が働いているために、非常に難しい作業となる。


深層真実を探求するときに留意するべきこととして、KWは下記の事項を挙げている。


歴史的には、人間の解放の大儀のもと、深層真実として提唱されてきた多数の真実は、実際には、提唱者の権力欲を充たすために他者を支配するための「虚偽」や「偏見」(ideology・prejudice)であった。また、たとえ、深層真実として提唱されたものが、妥当性を所有した真実であるとしても、それが、限定的な真実ではなく、包括的な真実として絶対化されるとき、その限定性が看過する真実を抑圧・否定する抑圧の装置と転じることになる。そこでは、他の真実は、あくまでも、自己の擁護する真実を隠蔽・抑圧するために構築された虚構として見做されることになるのである(例:Sigmund Freudの理論の絶対化によりもたらされた、高次欲求の性衝動への還元)。自己の限定的な視野が必然的にもたらすことになる諸々の並存する真実にたいする盲点にたいして、深層真実の探究にたずさわる者は注意をすることが要求される。


左側領域("What does it do?")

  • 表層機能(manifest function)

共同体の構成員が認識している自己の行動の意味(機能)

  • 深層機能(latent function)

共同体の構成員が認識していない自己の行動の深層的な意味(機能)


右側領域と異なり、左側領域においては、深層機能は、抑圧のために認識されないのではなく、知識の欠如のために認識されないことに留意する必要がある。


例えば、右上領域の深層機能である大脳の生理的機能についての認識の欠如は、抑圧の結果ではなく、単純に知識の欠如に起因するものである。深層機能の認識の欠如は積極的に希求されたものではないために、課題となるのは、あくまでも、適切な方法に依拠した検証可能な客観的知識の獲得に収斂することになる。


上記のように、無意識(the unconscious)はAQALの各領域に存在する。諸々の探求活動は、自己の観点を、AQALのいずれかの領域に設定することをとおして、その妥当性の基準を基盤にして、無意識を克服するための照明の活動にとりくむのである。


The Big Three


KWは、AQALの各領域が"I"・"We"・"It"・"Its"という代名詞により象徴されえることを踏まえて、これらを"the Big Three"と形容する("It"と"Its"は、共に外面領域に対応するためにIt/sとして簡略化されている)。

  • 左上領域:I(わたし)
  • 左下領域:We(わたしたち)
  • 右上領域:It(それ)
  • 右下領域:Its(それら)

世界において、Individual Holonは、常にBig Threeという文脈のなかに存在している。そして、これら三領域は、他領域に還元することのできない独自性を維持しながら、ひとつのまとまり(unit)として進化を遂げるのである。

こうした領域間の密接な相互関連は、必然的に、抽象的なレベルにおいて、個の成長(ontogenetic evolution)と種の成長(phylogenetic evolution)に共通の規則性を賦与することになる。個の成長と種の成長は、Deep Structure(Deep Features)のレベルにおいては、共通の進化の道筋をたどるのである。


発達心理学者のRobert Keganが指摘するように、文化空間(Social Holon)は、個人(Individual Holon)にとり、「学校」("school")として機能する。文化空間は、「支配的な意思疎通形態」("dominant mode of discourse")を設定することをとおして、そこに参画する個人の意識構造を特定の段階に誘導する牽引力を発揮するのである。


今日、個の意識成長が集合規模でVision Logic段階に到達しようとしているという事実は、即ち、人類が歴史的に実現してきた意識成長の過程が、Vision Logic段階にいたるまでの諸段階を文化空間に持続する規則性として確実に定着させたことを示唆する。個人は、歴史的存在としてAQALのなかに生まれ出ることをとおして、文化空間が行使する形態形成的(formative)な影響を必然的に受けることになる。歴史の先端 に生まれ合わせることをとおして、個人は、人類が歴史的に敷設してきた進化の遺産を継承することになるのである。そして、21世紀という時代に生まれるということは、Vision Logic段階の実現可能性を内蔵した文化空間をあたえられることを意味するのである。


*1 KWの最新の理論体系であるWilber-FiveにもとづいたIndividual HolonとSocial Holonについての考察は、鈴木 規夫(2007)「Individual HolonとSocial Holon:Agapeの二形態」を参照していただきたい。


*2 尚、留意事項として、KWは、下記のことを指摘している。深度("depth")を深め、範囲("span")を縮める進化の過程のなかで、Individual Holonは大きくなり、そして、Social Holonは小さくなる傾向にある。低次のIndividual Holonを自己の構成要素として包含することをとおして、高次のIndividual Holonは、必然的に、その規模を大きくすることになる。また、高次のIndividual Holonの成立を可能とするSocial Holonは、低次のIndividual Holonの成立を可能とするSocial Holonに比較して、低次のIndividual Holonの個数よりも高次のIndividual Holonの個数が少ないために、必然的に、その規模を小さくすることになる。但し、各階層内においては、Social Holonの範囲は拡張しえることに注意されたい(例:人間の共同体は、VillageからGlobal Villegeへと範囲を拡張している)。


*3 惑星上に存在する細胞は、原核生物(prokaryote)と真核生物(eukaryote)に分類される。構造的・機能的に複雑な真核生物には、Genome DNAを収容する袋状の器官(核膜)が存在しており、また、形状も多様である。


*4 これについては、KWは、Kosmic Karma and Creativityにおいて、Alfred North Whiteheadの"prehensive unification"という概念を活用しながら、時間軸上に展開する過去の継承と超越のダイナミクスがインテグラル思想における重要洞察であることを強調している。


*5 但し、こうした姿勢を堅持する際、観察者は「回顧的投影」("retrospection")の危険性に留意をする必要がある。「回顧的投影」とは、下位の発達段階にあるIndividual Holonの内部に高次の思考や感情が息づいていると錯覚することであるが、こうした錯覚は、上位の発達段階にあるIndividual Holonが下位の発達段階にあるIndividual Holonの行動を観察する際、上位の発達段階が可能とする諸々の高次の思考や感情を投影して解釈するときに発生する。

参考資料

Brad Reynolds (2006). Embracing reality: The integral vision of Ken Wilber. NY: Jeremy P. Tarcher.
Brad Reynolds (2006). Where's Wilber at?: Ken Wilber's integral vision in the new millennium. St. Paul, MN: Paragon House.
Ken Wilber (1995/2000). Sex, ecology, spirituality: The spirit of evolution (Second Edition). Boston: Shambhala.
鈴木 規夫(2007)Individual HolonとSocial Holon:Agapeの二形態 Available at http://integraljapan.net/articles/IndividualHolon&SocialHolon1.htm