Integral Japan Mail Magazine Vol.57

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          Integral Japan Mail Magazine
            No. 57 (2012/03/23)
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-----INDEX----------------------------------------------------------
【1】鈴木 規夫のインテグラル・エッセイ〜「実践生活の成熟」〜
【2】「インテグラルな人びと」〜第1回 門林 奨さん(2)〜
【3】イベントのご案内
【4】お知らせ〜弊研究所代表・ 鈴木 規夫のブログが新しくなりました〜
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皆様、こんにちは。東日本大震災から1年が経過しました。改めて、亡くなら
れた方々の御冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた方々に心よりお見舞
い申し上げます。1年という時間が過ぎましたが、多くの人々の努力にもかか
わらず、まだまだ被害の爪痕も生々しい地域が多く存在しています。また、福
島第一原子力発電所の状況も、主要な報道機関では余り報じられなくなりまし
たが、いまだ収束・安定にはほど遠いもののようです。このような、厳しい、
先行き不透明な時代を生きていく上で、インテグラル・アプローチが何らかの
助けとなってくれることを願い、インテグラル・ジャパンでは、講座やメール
マガジンによる情報発信等を続けていきます。

今号では、代表・鈴木 規夫のインテグラル・エッセイと、新シリーズ「イン
テグラルな人びと」を中心にお送りします(千葉)。

【1】鈴木 規夫のインテグラル・エッセイ〜「実践生活の成熟」〜

著書『実践 インテグラル・ライフ』(Integral Life Practice)(春秋社)
の中で、ケン・ウィルバー(Ken Wilber)は、統合的な実践生活の核にあるべ
きものとして、「倫理の実践」(ethics module)をあげる。意識の変容とい
う実践活動にとりくんでいくうえで、それが、単に自分を利するだけではなく、
他者や社会や自然に寄与するものとなるように意図することを必須の条件とし
てあげているのである。

周知のように、トランスパーソナル心理学においては、単に自分の治癒や成長
のためだけに実践にとりくむことを「霊的物質主義」(spiritual materialism)
と呼んでいる。たしかに、そこで追及されているものは、「成長」「変化」「変容」
等の精神的なものであるかもしれない。しかし、そうしたとりくみは、それら
があたかも自己の空虚を充たしてくれる「獲得対象」として位置づけられてい
るという意味においては、構造的には、金銭や財産や出世をはじめとする物質
的な対象物を追及する態度と何等の変わりはないと指摘するのである。

こうした問題意識は、トランスパーソナル運動の黎明期から関係者のあいだで
共有され、今日にいたるまで、すべての研究者と実践者に核心的な課題をつき
つけつづけている。即ち、自分はそもそも何のために意識の変容という実践に
とりくんでいるのかという問いと格闘するよう、われわれを鼓舞しつづけてい
るのである。実践を単に自分だけのためのものにするのではなく、自己を超え
た意味をもつものとして昇華していくためにはどうすればいいのか……? こう
した根源的な問いを問いつづけることこそが、倫理の実践の核心にあるものな
のである。

ただし、ここで注意すべきことは、意識の変容という実践において、自己とむ
きあい、そして、自己を癒し、充たし、育むという行為は、決して恥ずべきも
のではないということである。むしろ、倫理の実践の出発点においては、自己
を慈しむということこそが至上の課題となるといえるのである。自らにあたえ
られた「自分」という存在にたいして、倫理的な責任を果たそうとするとは、
その治癒と成長と統合に主体的な責任を果たすということにほかならないので
ある。

その意味では、マリオ・ヤコビ(Mario Jacoby)の指摘するように、真に意識
の変容のプロセス――ユング心理学においては、「個性化」のプロセスといわ
れている――がはじまるとき、それはしばしば自己愛(narcissism)の肥大化
として顕在化することになる。それまでさまざまな外的な活動や対象に投資さ
れ、拡散・消費されていた心的エネルギーを自己にひきもどし、それをこの「自
分」という神秘的な存在の探求に内省的にふりむけていくことは、自己の実践
生活を最終的に自己超越的なものに質的に変容させていくためには、重要な基
盤となるのである。エリヒ・フロム(Erich Fromm)は、著書『愛するというこ
と』(The Art of Loving)の中で他者を愛することができるためには、自己を
愛することができなければならないと述べているが、それはこうしたことを意
味しているのだろう。

その意味では、われわれは、その実践生活の初期段階においては、全て霊的物
質主義者として、活動にとりくみをはじめるのである。そして、賢明な実践者
とは、それを自らに許すことができるのである。

ILP(統合的な実践生活)が、統合的であるゆえんとは、それが長期的・継続
的なとりくみの中で質的に変容するものであることに意識的であるということ
にあるといえる。つまり、われわれの実践というものが、長期的な時間の中で
その関心や欲求を徐々に変えていくものであることを明確に認識したうえで、
それぞれの段階の要求を確実に充たそうとするのである。

換言すれば、ILPにとりくむとは、今という瞬間において、自らがとりくんで
いる実践活動を大局的な文脈の中に位置づけることができるということである。
そして、それぞれの段階における課題が解決されたとき、自らの実践を高次の
段階にむけて変質させていくことができるということである。つまり、それは、
実践というものが、人生をとおして、変質しつづけていくものであることを認
識して、その絶え間ない変化に俯瞰的に寄り添うことができるということなの
である。

インテグラルな実践者の責任とは、こうした人生を俯瞰した視点を維持しなが
ら、人間の実践生活に関与していくということにあるといえる。とりわけ、今
日において必要とされるのは、意識の変容というものが、自己実現の段階を超
えて、いずれは自己超越の段階に昇華していくものであることを明確に示して、
そうした質的に変化を促していくための理論的・実践的な関わりができるとい
うことである。

残念ながら、先人の警鐘にもかかわらず、霊的物質主義は、いまだに広範にひ
とびとを病的なレベルで呪縛している。それは、「自己の探求」という果てし
ない迷路に人々を絡めとり、実は、自己を忘却して、社会と時代に自己をコミッ
トさせることが実践生活の次なる段階であるという認識を妨げているのである。

しかし、今われわれが生きているのは、紛れもない危機の時代であり、その中
では外的な領域で発生していることに目をつむり、内面領域の探求に耽溺しつ
づけることは許されない(そもそも、外的環境が悪化すれば、内的探求そのも
のができないという状況に追い込まれることになる)。必然的に、われわれに
は、自らの実践を着実に成熟させ、時代と社会への倫理的責任を果たすための
基盤をつくることを求められているのである。

あるインタビューの中でウィルバーは、個人が真の変容を遂げたのかどうかと
いうことは、窮極的には、そのひとが自己の倫理的な責任をひきうけて、行動
をはじめたのかどうかということをとおして判断されることになるという指摘
をしている。内面探求は、それそのものが深い充足感をもたらしてくれるもの
であるために(例:至高体験)、ときとして、それが必然的にともなうことに
なる倫理的な責任にたいして、われわれの意識を遮断することになる。統合的
な実践の要諦とは――そして、思うに、真の霊的実践の要諦とは――そうして
治癒・蘇生された意識を倫理的な実践につなげていくということなのだろう。

参考資料

Andrew Cohen and Ken Wilber (2010). THE GURU AND THE PANDIT: Vertical
vs. Horizontal Development. In Enlighten Next (Issue 46).
Erich Fromm (1956). The Art of Loving. New York: Harper & Row.
Mario Jacoby (1991). Individuation and Narcissism: The Psychology of
Self in Jung and Kohut. London: Routledge.
Ken Wilber (2010). Integral Life Practice: A 21st-Century Blueprint for
Physical Health, Emotional Balance, Mental Clarity, and Spiritual
Awakening. Boston, MA: Integral Books.

【2】「インテグラルな人びと」〜第1回 門林 奨さん(2)〜

各地でインテグラルな実践に携わる方々やその活動をご紹介する新シリーズ。
今回は、前回に引き続き、京都でインテグラル理論・実践研究会を主催してお
られる門林 奨さんの御紹介です。

☆誌上Q&A(続き)

Q4.研究会では、毎回どんなことをしていますか?

A4.もともとは、その回にとりあげる書籍を事前に決めておき、私の作成した
レジュメに沿って議論や意見交換をおこなうということのみをおこなっていま
した。が、次第に、ごく簡単な瞑想やボディワークの時間を研究会の初めにと
りいれるようになりました。

近頃は、研究会の初めにごく簡単なボディワークとビッグ・マインド・プロセ
ス(自身のなかに息づくさまざまな「声」になりきるワーク)にとりくんだあ
と、私の作成したレジュメに沿って議論をおこない、そして最後にグループ・
ディスカッションや意見交換・体験共有の場を設けるという流れで進めていま
す。 

そのあとには希望者の方と近くの喫茶店へ向かい、ざっくばらんで愉快な(?)
ひとときを過ごします。

Q5.研究会にはどういう方がいらしていますか?

A5.職業で言えば、学生、フリーター、一般企業に勤める方、NPO団体の代表者、
現役医師、セラピスト、政治団体の職員、自衛隊関係者など、年齢で言えば20
代から50代の方まで、実にさまざまですね。

インテグラル思想のふところの広さというか、雑食性というか、そうしたもの
がよくも悪くも反映されているのだろうと思います。

Q6. ご自分で研究会を開催してみて得られたもの、感想等を教えてください

A6. ひとことで言えば、「仲間」と「多様性」ですね。

今思えば、インテグラル思想に関する踏み込んだ対話のできる仲間が近くにい
ないときには、「インテグラル・アプローチ」という誰がどこから見ても同一
の1つのアプローチがあるように(無意識的に)考えていたのではないかと思
うのですが、研究会を通して多種多様な「インテグラル実践者」とふれあうな
かで、それぞれの方がそれぞれの苦悩や課題や問題意識を抱えており、インテ
グラル思想に求めるものも望むものも大きく異なっているのだということを身
体的に実感することができたと思います。

自己理解という観点から述べれば、「私はインテグラル実践者である」という
認識から、「私は○○という点に独自性をもつインテグラル実践者である」と
いう認識へと進んだ、とも言えると思います。月並みな言い方をすれば、イン
テグラル・コミュニティのなかに身を置くことは、1つのゴールであり、そし
て1つの新たなスタートであるといったところでしょうか。

Q7. 今後、インテグラルな取り組みに関して、どういう計画や構想を持って
いらっしゃいますか?

A7. まずはこのインテグラル・コミュニティを質・量ともに高め深めていき
たいと思っていますね。私自身を含めた参加者一人一人が統合的な成熟度を深
め、各自の日常生活・社会生活において誠実にその成果を還元してゆくなかで、
徐々に徐々に、その在り方に惹きつけられる人が増えてゆく・・・ということ
になればよいのですが。

10年20年スパンの計画かもしれませんが、ある種の「メタ・コミュニティ」と
して機能することができればという野望もあります。長期参加者の方がそれぞ
れの専門技能とインテグラル・アプローチを結びつける場として、この「イン
テグラル・コミュニティ」とは別に、「インテグラル・エデュケーション・コ
ミュニティ」「インテグラル・メディスン・コミュニティ」「インテグラル・
ビジネス・コミュニティ」「インテグラル・セラピー・コミュニティ」「イン
テグラル・エコロジー・コミュニティ」といったものを立ち上げるという具合
ですね。

Q8. メールマガジンの読者の皆様に、メッセージがありましたらお願いしま
す。

A.8 インテグラル思想に限らないことかもしれませんが、なにか慣れないも
のを始めようというときに、同じことに関心を抱いている他者との共同空間の
なかに継続的に身を置くというのはとても意義深いことだと思います。それは
私自身がインテグラル思想に関する研究会を続けることで深く実感させられて
いることでもあります。

なので、東京と京都に限らず、ぜひさまざまな場所で、ウィルバーやインテグ
ラル思想に関する「出会いの場」が築かれることを願っています。私自身
、mixiとブログという2つのツールだけでコミュニティ立ち上げの連絡をおこ
ないましたが、実は「隠れウィルバリアン」や「隠れインテグラリスト」とい
うのは思いのほか眠っているのではないかという直感もあります。

ともあれ、ウィルバーも述べているように、歴史的には、そうした「草の根」
的な共同空間の集積こそが、時代の意識変容を底から突き動かしてきたとも言
われるわけで、その意味でも、日本各地のさまざまな場所で「小さなインテグ
ラル空間」が形成されることを期待せずにはおれません。

以上ですが、長々と述べさせていただいてありがとうございました。読者のみ
なさまといつかお会いできることを楽しみにしております。

☆門林さんのご活動の詳細についてはこちらまで:
ブログ:http://beyonddescription.blog57.fc2.com/
mixiコミュニティ:http://mixi.jp/view_community.pl?id=5112305

【3】イベントのご案内

1.ケン・ウィルバー研究会
[日時] 2012年4月21日(土) 13:15〜16:00
[場所] アトリエ・イフ・シーエイティー
〒158-0083
東京都世田谷区奥沢6-32-9 ローズコート自由が丘2-A
(東急東横線・大井町線 自由が丘駅徒歩5分)
アクセスマップ:http://www.color-art.jp/access.html
[参加費]2,000円 (現地で現金にてお支払いください)
[講師] 鈴木 規夫(インテグラル・ジャパン総合研究所代表)
*参加条件は特にありません。直接会場にお越しください(事前予約の必要は
ありません)。
*詳細についてはこちらまで:http://blog.integraljapan.net/

2.インテグラル・コーチング基礎講座:発達志向型コーチング〜クライアント
の深層的な成長を支援する〜(速報)
[日時]2012年6月2日(土)・7月8日(日)・8月18日(土)、いずれも13:30
〜17:00
[場所]アトリエ・イフ・シーエイティー
〒158-0083
東京都世田谷区奥沢6-32-9 ローズコート自由が丘2-A
(東急東横線・大井町線 自由が丘駅徒歩5分)
アクセスマップ :http://www.color-art.jp/access.html
[受講料]45,000円(全3回)
[講師] 鈴木 規夫(インテグラル・ジャパン総合研究所代表)
※当講座は、6月2日(土)・7月8日(日)・8月18日(土)の全てに参加して
いたくことを前提にしています。御都合のために出席できない日がある場合に
は、申込時に開催者まで御連絡ください。

*講師よりメッセージ:
インテグラル・コーチングとは?・・・
インテグラル・コーチングとは、現代思想家ケン・ウィルバーの提唱するイン
テグラル理論にもとづくコーチングです。その特徴は、意識構造(stage)・
意識状態(state)・能力領域(lines)・人格特性(types)・象限・領域
(quadrants)という、人間の成長を支援するために重要となる5つの要素に対
して統合的【インテグラル】にはたらきかけることにあります。

発達志向型コーチング・・・
インテグラル・コーチングには、多様な要素がふくまれますが、その中核を成
すのが「発達」の視点です。

人間には、様々な能力(機能的能力)がありますが、それらは意識構造という
OSにもとづいて機能しています。コーチやセラピストがクライアントの能力開
発を支援するにあたって、とりわけ重要となるのは、このOSの発達を支援する
ことです。これにより、クライアントの「存在」(Being)・「行動」(Doing)・
「認識」(Seeing)の全ての領域の成長を促し、クライアントの能力開発を総
合的に実現することが可能となります。

このワークショップでは、インテグラル・コーチングの核心にある、こうした
発達論的な視点とその活用法を習得することに焦点を絞ります。

*本講座は、間もなく申込み受け付けを開始します。インテグラル・ジャパン
のウェブサイト(http://www.integraljapan.net/)よりお申込みください。

【4】お知らせ〜弊研究所代表・ 鈴木 規夫のブログが新しくなりました〜

弊研究所代表・ 鈴木 規夫のブログですが、Internet Explorerでは閲覧で
きないというご指摘を受け、2月から新ブログに移行しています
(http://norio001.integraljapan.net/)。2012年2月以前の記事は、旧ブログ
(http://integraljapan.net/wordpress/suzuki/)でしかご覧いただけません
ので、旧ブログをお読みいただく際は、Internet Explorer以外のウェブブラ
ウザをご使用いただきますよう、お願いいたします。

*ご意見、ご感想などはお気軽にどうぞ! inquiry@integraljapan.net
*本メールマガジンの送付先アドレスの変更、及び、配信不要の方は、
inquiry@integraljapan.netまでご連絡ください。

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インテグラル・ジャパン・メールマガジン No. 57
配信日:2012年3月23日
発 行:インテグラル・ジャパン総合研究所
http://www.integraljapan.net/
発行人:鈴木 規夫
編 集:千葉 絵里

*無断複製・転載を禁止します
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