Integral Japan Mail Magazine Vol.44

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Integral Japan Mail Magazine
No. 44 (2010/12/25)
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【1】『インテグラルであるとは政治的であること』〜松永 太郎氏の逝去を
悼む〜
【2】インテグラル・ジャパン主催イベントのご案内
【3】他団体主催イベントのご案内
【4】編集後記
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皆様、こんにちは。2010年最後の配信となります。今号では、先日逝去された
松永 太郎氏(ケン・ウィルバー『進化の構造』『インテグラル・スピリチュ
アリティ』等の翻訳者)を悼み、弊社代表・鈴木 規夫が執筆した追悼文を掲
載いたします。

【1】『インテグラルであるとは政治的であること』〜松永 太郎氏の逝去を
悼む〜

長年にわたり、ケン・ウィルバーの著書の翻訳者として尽力された松永 太郎
氏が、今年11月に逝去されました。

1985年に『意識のスペクトル』が翻訳されて以降、ウィルバーの著作はこれま
で30年以上にわたり日本に紹介されつづけていますが、松永氏は、『進化の構
造』の出版を契機としてはじまるウィルバー思想の「第四期」(Wilber-Four)
の著作の中心的な紹介者として活躍されました。これは、ウィルバーの思想が
「トランスパーソナル思想」の枠組みを明確に超えて、「インテグラル思想」
として確立される非常に重要な時期であり、また、松永氏はその意義を正しく
理解していた数少ない知識人でした。

現在、インテグラル・ジャパンがこうして活動をすることができるのは、これ
までにウィルバーの思想の翻訳・紹介に携わってこられた数多くの翻訳者の方
々の努力に負うものですが、中でも松永氏の業績に負うところは非常に大きい
といえます。あらためて松永氏の御冥福を御祈りしたいと思います。

わたしが松永氏とはじめて御逢いしたのは、CIISでの研究生活を終えて帰国し
た2005年の秋のことでした。木枯しの吹く中で御茶ノ水駅の改札口で待ち合わ
せて、そのまま松永氏の経営するイタリア・レストランに行き、数時間ほどの
あいだに様々な話題について会話をしました。とりわけ、国内の文化的・社会
的な状況を正確に把握するためには、「発達」の視点が必須となるということ
についてふたりで話合ったことは、今でも鮮明に記憶しています。

個人的には、ウィルバーの紹介者として松永氏をユニークな存在としているの
は、その政治的な現実(リアリティ)に対する感性の鋭さにあると思います。
そして、正にそれゆえに、「第四期」においてウィルバーの思想の枠組み(フ
レームワークが大きく変貌したときに、その意義を正しくとらえることができ
たのだろうと思われるのです。

ウィルバーはインタビュー等で「インテグラルであるとは政治的であるという
ことである」と発言をしています。いうまでもなく、これは、選挙や納税等の
政治的な活動に参加するということではなく――それが市民としての義務であ
ることはいうまでもありませんが――むしろ、わたしたちの日常が本質的に政
治的な側面を内包していることに意識的であるということです。インテグラル
思想の基盤である四象限図には、個人と集合が密接に関連していることが明示
されていますが、それは、わたしたちひとりひとりが共同体(コミュニティ)
を支え、また、共同体に支えられていることを示します。それは、そのことを
意識するしないにかかわらず、四象限の中に置かれることをとおして、わたし
たちの存在の条件となるのです。

ウィルバーの第四期の枠組みは、そのことを明確に認識させるものでした。ま
た、それは、それまでの人間性開発運動(ヒューマン・ポテンシャル・ムーヴ
メント)を規定していた「個人の意識が変容することをとおして、世界は変容
するのだ」という内面主義的な発想の誤謬を露にするものでした。実際、21世
紀においてわたしたちが経験している危機の多くは大規模のものであり、個人
の意識が変容するだけでは、到底解決できないものです。

こうしたことは、ある意味では、当然のことであり、ことさら強調されるべき
ことではないように思われます。しかし、そのことを常に意識することは、必
ずしも容易なことではありません。それは、自己の存在が、自らの個人的な努
力では解決できない巨大な問題の影響下に置かれていることを認識することで
あり、そして、そのことが醸成する無力感を抱擁するということにほかならな
いからです。

しかし、インテグラルであるとは、個人としての救済というものが時代や社会
の幸福と離れたところで実現できないものであることを認識することです(そ
のことは、インテグラル思想において、「わたし」の「実現」や「救済」に執
着する個人主義的な霊性(スピリチュアリティ)が批判されることにも示され
ています)。それは、個人の努力では解決できない問題を自己の問題として受
けとめることを決意することを意味するのです。

松永氏は、企業の経営と翻訳の傍ら、平河総合戦略研究所のメールマガジンに
定期的にエッセイを寄稿していましたが、その内容は、政治や経済をはじめと
する同時代の集合的な問題を鋭く探究する、洞察溢れるものでした。そして、
また、そこには、そうした問題と対峙する人に特有の絶望と諧謔と希望という
相克する感情が常に共存していたように思われます。

第四期を迎えて、ウィルバーの思想が個人と集合の本質的な不可分の関係をそ
の重要な洞察として位置づけるものに深化したとき、松永氏がその意義を的確
に認識して、日本語への翻訳に継続してとりくまれたのは、ひとつには松永氏
がこうした資質を有していたからなのではないでしょうか。

2001年9月11日に発生した「同時多発テロ事件」をわたしは滞在中のサン・フ
ランシスコで経験しました。リアル・タイムでテレビの画面に映しだされる世
界貿易センターの崩壊を目撃しながら、わたしは異様な感覚を経験していまし
た。それは、今、目の前で歴史が大きく動いていることを直感したことがもた
らす精神の震撼といえるかもしれません。それは、いわば、ひとつの新しい時
代が突然に幕開けたことに対する驚きであり、また、それが紛れもない暗黒の
時代となるであろうことに対する畏れでありました。

実際、間もなくして、合衆国は「対テロ戦争」の大義のもと、戦争に突入する
ことになります。また、時を同じくして、わたしたちの生活する日本の周辺で
は、事実上の冷戦構造が再現化して、政治的・経済的・軍事的な軋轢が激化し
ていくことになりました。とりわけ、周囲を核保有国に包囲された日本にとり、
過去10年間に現実化した国際的な現実(リアリティ)は、未曾有の危機をも
たらすものであるといえます。

くわえて、それらの核保有国が全て実質的な独裁体制にもとづいて運営されて
いるということ――つまり、それらの国の行動論理が「他者利用型段階」(op
portunist)という極度に自己中心的な段階にあるということ――は、彼らと
意味のある対話をすることそのものを困難にすることになります。こうした状
況の中でわたしたちはあらためて国家として自らが立脚する価値観について再
検討することを求められています。発達心理学者のロバート・キーガン(Robert
Kegan)が述べるように、「わたしたちが問題を解決するのではなく、問題が
わたしたちを解決する」状況が生まれているのです。

こうした急激な時代状況の変化を受けて、2001年以降、合衆国では、一般の人
々のあいだで非常に活発な政治的議論が行われるようになりました。とりわけ、
湾岸戦争の当事者である合衆国においては、「そもそもこの戦争は何のために
行われているのか?」という根源的な問いに遡る真摯な探究が、今日まで多
数の人々により行われています。

こうした空気の中で次第に注目を集めるようになったのが、資源をめぐる問題
でした。今世紀において、わたしたちは、水や土壌をはじめとして、自己の生
物としての基盤を構成する重要資源の枯渇という危機的な状況を経験すること
になるといわれています。さらには、現在の物質的繁栄を可能としてきた――
また、産業革命以降の人類の人口の大量爆発を可能としてきた――化石燃料が、
21世紀に枯渇局面を迎えることが意識されはじめています。

これまでの10年というのは、日常の水面下で進行しているこうした歴史的な事
態を人類が集合的な規模で意識しはじめた10年であるといえます。そして、今、
世界各地で展開されている資源争奪戦の意味は、こうした文脈の中に位置づけ
られることをとおして、明らかにされることになったのです。いうまでもなく、
こうした争奪戦は軍事衝突という形態をとるだけでなく、経済的・政治的・文
化的な軋轢や衝突という形態をとることになります。これまでの10年というの
は、こうした国家間の利害の衝突が顕在化して、恒常的に国際秩序を混乱させ
る「危機の時代」の只中にわたしたちがいることを露呈した時期だといえます。

オックスフォード大学の考古学者のスティーヴン・ルブラン(Steven Le Blanc)
は、著"Constant Battles: Why We Fight"の中で、人類が戦争をするのは、
必ずしも人類が凶暴であるからではなく、むしろ、人類が愛する能力をもつか
らであるという意味のことを述べています。人類は幸福と繁栄を求めて、自己
の生活環境が埋蔵する資源を利用するための技術を歴史的に進化させてきまし
た。しかし、それは、また、同時に資源の枯渇を急激に進行させることをとお
して、生活環境の人口収容能力(carrying capacity)を損なうことになります。
こうした状況の中で人類は愛する同胞の生命を維持するために、致し方なく周
囲の共同体(コミュニティ)に進出していくことを強いられてきたのだ――と
いうのです。

今日、わたしたちの周囲で展開している様々な国際的な軋轢や衝突とは、その
深層において、人類が歴史的に経験してきたこうしたメカニズムにもとづくも
のだといえそうです。ただし、今日の危機が特殊であるのは、20世紀をとおし
て、文明の人口収容能力を増大してきた最重要資源である化石燃料が惑星規模
で枯渇局面を迎えることになるということです。それは、最終的には、人類の
生物種としての存亡に関わる問題として顕在化することになる究極的な危機と
いえるものなのです。

近年、ベストセラーとなったジャレド・ダイアモンド著作をはじめとして、人
類文明の崩壊の可能性について検証をこころみる作品が発表されていますが、
こうした話題に対する関心の高まりは、正に21世紀の人類の生存条件を的確に
反映したものであるといえるでしょう(代表的なところでは、他にはRichard
Heinbergの"Party's Over"やJoseph Tainterの"The Collapse of Complex
Societies"があります)。

「インテグラルであるとは、政治的であるということである」というウィルバー
の発言には多様な意味が含意されています。しかし、少なくともそのひとつは、
こうした同時代の状況を鳥瞰的に把握したうえで、日常の中で発生している政
治的・経済的・軍事的なイベントの意味を洞察することであるといえるでしょ
う。そして、そうした洞察を基盤とする問題意識を自己の統合的な実践(イン
テグラル・プラクティス)の中に反映させていくことを意味するのです。

こうした意味においては、松永氏の著作活動は、21世紀という時代が対峙する
深刻な危機を実に的確にとらえたものであったといえます。そこには、霊性(
スピリチュアリティ)に対する真摯な感性と共に、こうした同時代の状況をき
れいごとで糊塗することのない透徹した知性が息づいていました。とりわけ、
日々混迷の度合いを高める国内の政治状況に関する洞察は、国家の衰退すると
きに集合意識を呪縛することになる視野狭窄の本質を見事にとらえるものでし
た。こうした卓抜した知性が喪失されたことは、くれぐれも残念でなりません。

最後になりましたが、あらためて松永氏の御冥福をこころより御祈りいたしま
す(鈴木 規夫)。

【2】インテグラル・ジャパン主催イベントのご案内

*会場のアトリエ・イフが10月に移転しております。新アトリエを初めて訪問
される方は、地図をご確認の上お出かけくださいますようお願いいたします。
アクセスマップ :http://www.color-art.jp/access.html

(1) ケン・ウィルバー研究会(2010年12月26日(日)13:00〜16:00、アトリエ・
イフ)
*事前の申込は必要ありません。参加費は、会場で現金にてお支払ください。
*今回の研究会では、『インテグラル理論入門II――ウィルバーの世界論』を
テキストとして取り上げます。
*どなたでもご参加いただけます。研究会は、講義というよりも、参加者の皆
さまとの意見交換の場と位置づけており、毎回、ご自分の専門や経験に基づい
て、活発な議論が展開されています。積極的なご参加をお待ちしております。

*詳細:http://blog.integraljapan.net/?eid=1421697

(2) インテグラル理論基礎講座(2011年1月22日(土)・2月19日(土)・3月19
日(土)、いずれも13:30〜17:00、アトリエ・イフ)
*インテグラル理論を一から学びたい方、本を読んだけれども分りにくかった
という方、自分の理解を確認し、全体像を概観したいという方に最適です。ま
た、これまで学んできた様々な手法や自分の課題を大きな文脈の中に位置づけ
たいという方、組織や個人の成長支援を志す方にもお勧めです。
*詳細・申込:http://integraljapan.net/info/seminar2011_kiso_spring.htm

(3) インテグラル理論中級講座(2011年2月27日(日)・3月27日(日)・4月24
日(日)、いずれも13:30〜17:00、アトリエ・イフ)
*インテグラル理論の基礎的な理解の上に、実践への応用にあたり鍵となる事
柄について、更に理解を深めていきます。
*統合的な視点を確立したい方、クライアントの能力開発や成長支援に携わっ
ておられる方に特にお勧めです。
*詳細・申込:http://integraljapan.net/info/seminar2011_tyukyu.htm

【3】他団体主催イベントのご案内

*こちらでご案内するイベントは、インテグラル・ジャパンが主催するイベン
トではありません。内容等ご確認の上、お出かけください。

*『インテグラル理論入門』出版記念フォーラム
『インテグラル理論入門I&II』の出版を記念し、日本トランスパーソナル学会
の主催・春秋社の協賛により、出版記念フォーラムが開催されます。共著者3名
による講演・対談が行われます。

テーマ:テーマ:インテグラル理論の可能性をトークしよう!
講演&対談者:鈴木規夫、甲田烈、久保隆司
日時:2011年1月15日土曜日 13:30〜16:30(13:15開場、途中15分程度の休憩
あり・質疑応答あり)
場所:産業商工会館3F講堂(JR中央線・阿佐ヶ谷駅徒歩5分)
東京都杉並区阿佐谷南3丁目2番19号
参加費:
一般 2,500円
日本トランスパーソナル学会員 2,300円
*事前予約は不要です。当日会場にお越しください。
*春秋社出版のインテグラル理論、ケン・ウィルバー関連本の割引販売あり。
*詳細:http://transpersonal.jp/archives/2124、
http://www.shunjusha.co.jp/news.html#291

【4】編集後記
今年一年を振り返ると、松永 太郎さんのみならず、親しい人たちを看取った
り、訃報に接したりする機会がなぜか多くあり、人間の存在の重みを考えさせ
られた一年でした。その人たちから私たちは多くのものを受け取り、願いを託
されているのではないか、と感じています。どうしたらその思いを引き継いで
いけるのか、考える年末年始にしたいと思っております。皆様が穏やかな年末
年始をお迎えになり、次なる一年に向けて、思いをめぐらすためのよい時間を
お持ちになれますように(千葉)。

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info@integraljapan.netまでご連絡ください。

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インテグラル・ジャパン・メールマガジン No. 44
配信日:2010年12月25日
インテグラル・ジャパン株式会社
http://www.integraljapan.net/
発行人:鈴木 規夫
編 集:千葉 絵里

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