Integral Japan Mail Magazine Vol.43

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Integral Japan Mail Magazine
No. 43 (2010/12/05)
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【1】 『インテグラル理論入門II――ウィルバーの世界論』刊行にあたって
〜前書きオリジナル版〜
【2】 イベントのご案内
【3】 編集後記
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皆さま、こんにちは。このほど、弊社代表・鈴木 規夫が執筆に参加したイン
テグラル理論入門書の第二弾、『インテグラル理論入門II――ウィルバーの世
界論』が春秋社より刊行されました。今号では、鈴木 規夫が執筆した前書き
のオリジナル版を掲載します(実際の書籍には、これを改稿した短いバージョ
ンが収録されています)。また、本書の刊行にあわせ、再度基礎講座を開催い
たしますので、この機会を是非ご活用ください。

【1】『インテグラル理論入門II−ウィルバーの世界論』刊行にあたって〜前
書きオリジナル版〜

21世紀において、私たちが直面する最大の課題とは、情報が不足していること
ではなく、情報が氾濫していることだといわれます。とりわけ、インターネッ
トをはじめとする電子情報網の発展以降、人々は、次々と手許に届けられてく
る新たな情報を迅速に、正確に咀嚼すること要求されています。ひとつひとつ
の情報を全体性の中に位置づけ、それぞれが相互にどのように関連しているの
かを把握する必要があるのです。とりわけ、私たちは、生活者として、また、
専門家として、最新の調査・研究の成果を吸収しながら、それらを刻々と変化
しつづける現場のなかでの実践に活かしていくための高度の応用力を発揮する
ことを必要とされています。その意味では、膨大な情報の奔流の中にありなが
ら、そこで麻痺することなく、逆にそれらを自らの洞察と実践の質を高めてい
くための資源【リソース】として利用できる統合力が必要とされているのです。

インテグラル理論とは、こうした現代の要請に応えるために開発された理論的・
思想的な枠組み【フレイムワーク】です。

世界をとらえるための方法には無数のものがあります。「思想」「理論」「方
法」といわれるものは、ひとつの「体系」(system)として、独自の視点にも
とづいて世界の真実を明らかにしてくれます。しかし、同時に、それらの「体
系」は、また、独自の偏見や盲点を生みだしてしまうことにもなります。つま
り、あらゆる「体系」は独自の洞察と盲点を内包しているのです。重要なこと
は、それらのうちのいずれかを正解として選択することではなく、それぞれが
どのような真実を開示するのか、そして、どのような真実を隠蔽するのかを把
握する「体系を体系化する体系」(meta-system)をもつことなのです。

インテグラル理論とは、こうした俯瞰的な知性を涵養するための道具であると
いえます。

しかし、それは、単に大量の情報を整理・咀嚼するための枠組みではありませ
ん。それは、同時に、私たちの意識の深化を支援する変容の枠組みでもありま
す。インテグラル理論を習得し、活用するとは、単に意識を世界に拡張し、そ
こに存在する多様な真実を統合するだけでなく、世界の深淵と対峙し、それを
抱擁することでもあるのです。

ケン・ウィルバーは次のように述べます。

この現代という時代において、暗黒の脅威がわれわれの頭上にたちこめている
という発言をしばしば耳にする。しかし、わたしの見解は必ずしもそのような
ものではない。暗黒と深淵の中には治癒をもたらしてくれる真実が常に存在す
るものである。あらゆるところで真・善・美を脅かしているのは、暗黒の脅威
ではなく、むしろ、浅薄さの脅威である。そして、それは、皮肉にも、自らを
深遠なものとして喧伝する。現代の危機と脅威とは、世界に蔓延する旺盛で臆
面のない浅薄さである。そして、それは、われわれに自らを救世主に仕立てあ
げて語りかけてくるのである。

われわれは光明と崇高さを喪失したかもしれない。しかし、より恐ろしいこと
は、われわれが神秘と深淵を、そして、空と闇を喪失したことである。われわ
れは、表層と影、そして、外面と殻に魅惑された世界の中で、それらを喪失し
ているのである。そして、世界の預言者達は、われわれに愛情ある口調でこの
浅薄な水溜りにあたまから飛び込むように鼓舞するのである。(Ken Wilber (
1995/2000). Sex, Ecology, Spirituality: The Spirit of Evolution. p. 7)

今日、世界はますます危機と混乱の度合いを高めています。そうした状況は、
必然的に、私たちを恒常的な不安状態に陥れることになります。そこでは、私
たちは、自己の存在をあずけることのできる知識や洞察を渇望することになり
ます。それは非常に脆弱で影響されやすい状態ということができます。

しかし、現代の危機を超克するための叡智として喧伝されるものの大多数は、
ウィルバーが指摘するように、臆面もなく浅薄なものであり、また、瞬時のあ
いだに過去のものとして忘却されていくものです。つまり、危機と混乱の時代
においてこそ、私たちは、自らを救世主に仕立てあげて語りかけてくる虚偽の
ことばを見通すための透徹した感性を確立する必要があるのです。そして、そ
れは、必ずしも、情報処理能力を向上することで実現できることではなく、自
己の全存在をこの世界の神秘と深層に開くための継続的な自己変容の実践をと
おして可能となるものなのです。

今日の時代状況の中で、私たちは、世界を広く見渡すだけでなく、世界を深く
見通すことを求められています。インテグラル理論とは、私たちがその両方を
真に効果的に実践することができるよう、私たちを変容の旅路に誘うものであ
るともいえます。

本書は、『インテグラル理論入門I:ウィルバーの意識論』(第1巻)の続編で
す。第1巻では、インテグラル理論の基本概念に焦点をしぼり、それらを概観
しましたが、第2巻では、近年の研究成果をふまえて、インテグラル理論の先
端的な内容を紹介しています。とりわけ、第1部では、"Wilber-Five"といわ
れる、統合的枠組み【インテグラル・フレイムワーク】の最新形態の概要を説
明します。これは、『進化の構造』(Sex, Ecology, Spirituality: The Spirit
of Evolution)(1995/2000)以降、インテグラル・コミュニティにおいて展
開された議論の成果を統合して、ウィルバーにより呈示されたものです。内
容的に複雑性を増しているために、少々難解なものになっていますが、学術
的な枠組みとしてのインテグラル理論の精華を習得するには、無視することので
きない要素といえます(第1部)。

また、第2巻では、現代社会の批判的な考察を可能とする枠組みとして、イン
テグラル理論が内包している「牙」の側面を紹介します。それは、21世紀とい
う時代を生きていくなかで、私たちが無意識のうちに絡めとられてしまう集合
的な病理を明らかにするものです。こうした批判的な視点をもつことは、統合
的な視点と感性にもとづいて同時代を把握し、そこで賢明に生きていくことが
できるために必須の条件となるものです(第2部)。

そして、本書の第3部では、インテグラル理論を日常の現場において実際に実
践していくための方法を紹介します。しばしば指摘されるように、インテグラ
ル理論とは、その本質において、研究と実践を相補的な要素として成立してい
ます。必然的に、私たちは、インテグラル理論を真に理解しようとするとき、
その知見を日々の現場に展開していくことを求められることになります。理論
とは、現場の中で試され、そして、再構築されることをとおして鍛え上げられ
ていくものであることを認識することは、統合的であるための必須条件である
といえるのです。

今日、インテグラル理論は、ケン・ウィルバーというひとりの思想家の手許を
はなれて、ひとつの思想運動としての独自の生命を獲得しはじめています。そ
れは、21世紀において人類が直面する諸々の課題に効果的にとりくんでいくた
めに必要とされる叡智と展望と方法を求める研究者と実践者の集う場所となっ
ているのです。

日本においては、いまだそうした機運は芽生えていないようです。しかし、今
後、時代が混迷を極めて、単純にその目新しさや進歩性ゆえにもてはやされて
いた諸々の思想がその限界を露呈していくなかで、過去を継承して、その基盤
のうえに将来を創造していくことを主張するインテグラル理論の旧くて新しい
発想はあらためて発見されていくことでしょう。

本書が、「超越と継承」(transcend and include)という歴史の本質的なダ
イナミクスを発現させていくための僅かながらの触媒となれることを執筆者と
して祈念しています(鈴木 規夫)。

【2】イベントのご案内

*アトリエ・イフが移転しました。初めての方は、地図・住所をお確かめの上
おいでください。

アトリエ・イフ・シーエイティー

〒158-0083
東京都世田谷区奥沢6-32-9 ローズコート自由が丘2-A
(東急東横線・大井町線 自由が丘駅徒歩5分)
*旧アトリエ・イフから線路沿いに2分ほど自由が丘方面に歩いた右手マン
ション2階
アクセスマップ:http://www.color-art.jp/access.html

(1) ケン・ウィルバー研究会(2010年12月26日(日)13:00〜16:00、アトリ
エ・イフ)
*事前の申込は必要ありません。参加費は、会場で現金にてお支払ください。
*今回の研究会では、『インテグラル理論入門II――ウィルバーの世界論』を
テキストとして取り上げます。
*どなたでもご参加いただけます。研究会は、講義というよりも、参加者の皆
さまとの意見交換の場と位置づけており、毎回、ご自分の専門や経験に基づい
て、活発な議論が展開されています。積極的なご参加をお待ちしており
ます。
*詳細:http://blog.integraljapan.net/?eid=1421697

(2) インテグラル理論基礎講座(2011年1月22日(土)・2月19日(土)・
3月19日(土)、いずれも13:30〜17:00、アトリエ・イフ)
*インテグラル理論を一から学びたい方、本を読んだけれども分りにくかった
という方、自分の理解を確認し、全体像を概観したいという方に最適です。ま
た、これまで学んできた様々な手法や自分の課題を大きな文脈の中に位
置づけたいという方、組織や個人の成長支援を志す方にもお勧めです。
*詳細・申込:http://integraljapan.net/info/seminar2011_kiso_spring.htm

(3) インテグラル理論中級講座(2011年2月27日(日)・3月27日(日)・
4月24日(日)、いずれも13:30〜17:00、アトリエ・イフ)
*インテグラル理論の基礎的な理解の上に、実践への応用にあたり鍵となる事
柄について、更に理解を深めていきます。
*統合的な視点を確立したい方、クライアントの能力開発や成長支援に携わっ
ておられる方に特にお勧めです。
*詳細・申込:http://integraljapan.net/info/seminar2011_tyukyu.htm

【3】編集後記

既にご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、ケン・ウィルバーの主著『進
化の構造』をはじめ、ウィルバー後期の重要著作の翻訳を手がけてこられた松
永 太郎さんが先日亡くなられました。松永さんの翻訳を通して、初めてウィ
ルバーの思想に触れられた方も多いことでしょう。私どもインテグラル・ジャ
パンも、松永さんの訳業なくしては、インテグラル理論と実践を広める活動を
行うのは極めて困難であったと思います。また、個人的には、特に瞑想的文章
の翻訳において、同じく日本語と英語の間で格闘する人間として、深く学ぶと
ころの多い大先輩でした。松永さんが私たちに伝え、残してくださったものに
心から感謝するとともに、衷心より哀悼の意を表します(千葉)。

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インテグラル・ジャパン・メールマガジン No. 43
配信日:2010年12月5日
発 行:インテグラル・ジャパン株式会社
http://www.integraljapan.net/
発行人:鈴木 規夫
編 集:千葉 絵里

*無断複製・転載を禁止します
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