Integral Japan Mail Magazine Vol.42

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Integral Japan Mail Magazine
No. 42 (2010/10/07)
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【1】鈴木 規夫のインテグラル・エッセイ「神話的合理性から合理性へ」
【2】イベントのご案内
【3】編集後記
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皆さま、こんにちは。今号も、好評のインテグラル理論質疑応答シリーズを中
心にお届けします!

【1】鈴木 規夫のインテグラル・エッセイ「神話的合理性から合理性へ」

質問:
意識の発達に関して、少々専門的なことについて質問します。
人格的な成熟に至るための重要な発達段階として、発達心理学は、自律的な思
考のできる認知構造の確立を重視します。ケン・ウィルバー(Ken Wilber)は、
著書の中でこれを「合理性段階」(rational stage)と呼んでいます。ウィ
ルバーによれば、この段階は、「神話的合理性段階」(mythic-rational stage)
を確立したあとに実現される段階であるとされています。しかし、Susanne
Cook-Greuter等の発達心理学者の調査・研究によれば、「神話的合理性段階」
から「合理性段階」への発達は必ずしも一足飛びに進展するものではないとい
われているようです。これは、実際のところ、どういうことを意味するのでしょ
うか?

回答:

「神話的合理性段階」から「合理性段階」への発達は、ウィルバーの著書では
しばしば単純化されて説明されますが、実際には、いくつかの小さなステップ
を積み重ねながら展開するようです。

Susanne Cook-Greuter博士(Jane Loevingerの後継者)は、これらの段階の間
に「転換期」(transitional stage)としてExpert 段階を設定しました。

簡単に説明すれば、Expert段階とは、社会にあたえられた「役割」「役職」「
立場」(rule/role mind)の範囲内において、自律的な思考をすることができ
る意識構造といえます。

神話的合理性段階の人々と異なり、Expert段階の人々は、共同体の世界観や価
値観(例:規範・常識・空気)を無批判に信奉するのではなく、主体的に思考
することができます。

また、しばしば、過去から継承されてきた「常識」や「慣習」を批判して、そ
の制約や限界を克服することのできる創造性や主体性を発揮します。
こうした行動論理は、たとえば、これまでの日本を支えてきた「ものづくり」
文化に見事に息づいており、そこで活躍する技術者や専門家の堅実な探求精神
や職業倫理に体現されています。

しかし、Expert段階の意識構造は、自己にあたえられた社会的な「役割」「役
職」「立場」を基盤としたものであるために、しばしば、その領域の常識や慣
習に縛られてしまう傾向にあります。

つまり、それは、ある特定の領域において常識として信奉されている発想や常
識を権威や真実として受容したうえで、批判的に思考するのです(このために、
しばしば「定説」を比較的に無防備に受容してしまいます)。また、そのため
に、その特定の領域で関係者により共有されている経験を絶対化して、それを
普遍的なものとして見なしてしまう傾向にあります。

そこでは、たとえ過去においてそうであったとしても、それが将来的にも確実
にそうありつづけるわけではないということ(世界の不確実性)が明確に認知
されないのです。

また、Expert段階の人々は、自己の専門領域の真実を、他領域の関係者が理解
できるように、適切に翻訳・解釈して伝達することを不得手とします。

このように、Expert段階は、神話的合理性段階の残滓を残しているために、自
身の思考の枠組みそのものをうまく対象化することができません。

自己の専門領域を絶対化するのではなく、世界に存在する多様な専門領域を俯
瞰して、それらの知識や洞察を利用・統合することができるようになるのは、
次なる段階である合理性段階が確立してからのことになります。

そのときには、Expert段階で獲得された基礎的な合理的・批判的な思考は、特
定の「役割」や「役職」を離れたものとして確立される、自律した「個」とし
ての目的や思惑や構想を実現するために利用されることになるのです。

そこでは、合理的・論理的な思考能力を発揮することが自己目的化するのでは
なく、むしろ、それを意図的・意識的に利用することができるようになるので
す。

尚、Harvard Graduate School of EducationのRobert Kegan博士は、今日、合
衆国において、人口の70%以上は合理性段階に完全に到達することはなく一生
を終えていくと試算しています。

今日、社会の先端においては、合理性段階の問題を克服するさらに高次の意識
構造の確立を要求する歴史的・文化的な条件が整いはじめていますが、実際の
ところ、人類の集合的な直近の課題がその基礎を固めることにあるのは、間違
いのないところです。

こうしたことを考慮するとき、人類の圧倒的な大多数がその意識の重心として
いる「神話的合理性段階」から「合理性段階」までの発達空間の微妙なニュア
ンスを繊細に、正確に把握できるようになることは、そこでの発達と成熟を効
果的に支援するための重要な資源となるといえます。

*インテグラル理論について、またILPについて、何かお尋ねになりたいこと
がありましたらご質問をお寄せ下さい。全てのご質問にお答えすることは難し
いかと思いますが、インテグラル理論やILPへの理解を深めるために、多くの
方と共有するのがふさわしいと思われるご質問については、エッセイなどの形
で取り上げさせていただきます。

【2】イベントのご案内

(1)初めて実践に取り組みたい方に:ILP Basicワークショップ
(2010年10月30日(土)、10月31日(日)、いずれも10:00〜17:00、Bumb東京
スポーツ文化館)
*ILP(Integral Life Practice)の基本コンポーネントを一通りご紹介し、実
習していきます。『実践 インテグラル・ライフ』を読んで実践に興味を持た
れた方にも是非お勧めです!
*宿泊込みのイベントではありません。宿泊が必要な方は、ご自分でお手配い
ただく必要があります。
*詳細・申込:http://www.integraljapan.net/info/seminar2010ilpbasic.htm

(2)より効果的なコミュニケーション・対人支援のために:インテグラル・
コーチング基礎〜発達段階測定〜
(2010年11月28日(日)、12月23日(木祝)、2011年1月30日(日)、各日と
も13:30〜17:00、アトリエ・イフ)
*インテグラル理論に基づき、「発達」の視点を対人支援・指導やコミュニケー
ションに活用する方法論を学びます。対人支援・指導に携わっておられる方、
インテグラル理論を人間関係にも応用したい方に特にお勧めです。
*本講座の受講には、インテグラル理論について基礎的な知識があることを前
提としています。
*詳細・申込:http://www.integraljapan.net/info/seminar2010_coaching.htm
*アトリエ・イフが移転しました。本講座は、新住所での開催となります。
〒158-0083
東京都世田谷区奥沢6-32-9 ローズコート自由が丘2-A
(東急東横線・大井町線 自由が丘駅徒歩5分)

*10月のケン・ウィルバー研究会はお休みします。11月以降のケン・ウィル
バー研究会では、11月に春秋社より刊行される『インテグラル理論入門II』
をとりあげていきます。

【3】編集後記

『インテグラル理論入門』の第2巻(春秋社・2010年11月発刊予定)の他に、
もうひとつ、実用的な書物の企画が進行中です。今月発刊のIJ Members会員誌
に、『インテグラル・シティ』の著者、マリリン・ハミルトンのインタビュー
を掲載しておりますが、海外では、インテグラル理論が様々な分野に応用され
つつあります。日本でも、様々な場で活用されていくことを期待しています
(千葉)。

*ご意見、ご感想などはお気軽にどうぞ! info@integraljapan.net
*本メールマガジンの送付先アドレスの変更、及び、配信不要の方は、
info@integraljapan.netまでご連絡ください。

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インテグラル・ジャパン・メールマガジン No. 42
配信日:2010年10月7日
発 行:インテグラル・ジャパン株式会社
http://www.integraljapan.net/
発行人:鈴木 規夫
編 集:千葉 絵里

*無断複製・転載を禁止します
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