Integral Japan Mail Magazine Vol.41

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        Integral Japan Mail Magazine
           No. 41 (2010/09/03)
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【1】鈴木 規夫のインテグラル・エッセイ「二種類の成長」
【2】イベントのご案内
【3】編集後記
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皆さま、こんにちは。九月になっても暑いですね。引き続き、体調にお気をつ
けてお過ごしください。今号も、インテグラル理論に関する質問に鈴木 規夫
がお答えする「インテグラル・エッセイ」を中心にお送りします。

【1】鈴木 規夫のインテグラル・エッセイ「二種類の成長」

質問
ケン・ウィルバーは、しばしば、人間の成長には、大別して2種類のものがあ
ると述べています。「変容」(transformation)と「翻訳」(translation)
です。前者は意識の深層構造が変化することであり、後者は意識の深層構造を
維持したまま、その範囲内で変化を実現することであると説明されています。

確かに、これまでの人生をふりかえると、これらの異なる種類の成長があるこ
とを漠然と認識することができます。それほどひんぱんではありませんが、自
己が根本的に変化するような「深層的」な成長を経験したことがあります。ま
た、一方では、日常生活の中で比較的にひんぱんに「表層的」な変化を経験し
ているようにも思われます。

実際のところ、これらを正確に識別するということはできるのでしょうか? た
とえば、今、この瞬間に生まれている「変化」がどちらの成長を生みだしてい
るのかを見分けることはできるのでしょうか?

回答
その変化が果たして「変容」(transformation)と「翻訳」(translation)
のどちらであるのかを見分けるのは、実際には非常に難しいです。

そのためには、少なくとも、意識構造を測定するための専門的な測定技術を修
得する必要があります。

その変化が真に構造的な変化を伴うものであるのかを見極めるためには、意識
構造というものに着目して、その成熟度を正確に計測するための具体的な方法
が必要となるのです。

ここで留意すべきことは、そこで経験される「変化」や「成長」が劇的なもの
であるということ――あるいは、劇的なものとして感じられるということ――
が、それそのものとしては、構造的な変化(「変容」)が起こったことの証拠
とはならないということです。

実際のところ、同じ意識構造が維持されたままでも、劇的な変化というのは生
まれえるものです。

普段、われわれが日常的に観察したり、体験したりする変化のうち、その大部
分はそうした変化(「翻訳」「転換」)だといえます。

意識構造に着目するとは、「それが劇的なものとして体験されたか」というよ
うな主観的なところとは異なる領域に注意をむけることを意味するのです。

人間は日常の生活の中で様々な種類の変化を経験します。

これまでの人生をとおして、われわれもたくさん変化を経験してきましたし、
また、日々の生活において、周囲のひとびとが変化をしていくのを目撃してき
ました。

全てが停滞してしまったようにみえる普段の生活においても、注意して観察す
ると、そこには何等かの小さな変化や成長が生まれていることに気付くことが
できます。

その意味では、人間の人生において、変化とは本質的な現実【リアリティ】と
いえます。

インテグラル思想は、こうした生の事実を可能な限り精緻に把握しようとする
のです。

そのための概念的な道具として、「変容」と「翻訳」は、非常に有用なものと
いえます。

しかし、われわれの目のまえに生まれたある具体的な変化が、前者の変化であ
るのか、後者の変化であるのかということは、普通に観察しているだけでは、
必ずしも明確に識別できないところがあります。

たとえば、何等かの変化の瞬間において――たとえば、深い洞察や発見を経験
するとき――われわれは自身の内面を観察しても、それがどのような種類の変
化であるのかを識別するための明確な目印を見出すことができるわけではあり
ません。

確かに、そこには、劇的な体験をすることができたことが生みだす充足や癒し
や安息の感覚や感情はあります。

しかし、それらは、そのものとしては、そこで体験された変化や成長というも
のがどのような性質のものであるのかを明示してくれるわけではないのです。

それは、あたかも100 Mの短距離走をしたときに、主観的な感覚(「今日は調
子が良かった」「今日は調子が悪かった」)が、必ずしも、そのときの客観的
な記録と直結していないことに喩えることができます。

実際、長年にわたり、真剣に運動にとりくんできた熟練者は、主観的な感覚を
過剰に信頼することが危険なことであることを知悉しています。

もちろん、それが重要な情報であることはいうまでもありませんが、ときとし
て、それを信頼しすぎることが自身の客観的な状態に関して過信や誤解を生み
だすことにもなりえることを認識しているのです。

そのために、彼等は、優れたコーチの指導を仰いだり、また、ストップウォッ
チや体重計をはじめとする様々な測定器を活用したりします。

即ち、自身の状況を把握するために、主観的な内省とは異なる、客観的な測定
の技法や道具を利用するのです。

同様に、人間の構造的な成長の度合いを把握するためには、そのための測定法
が必要となります。

とりわけ、インテグラル思想において強調される意識構造(認知構造)に関し
ては、Jean Piaget・Lawrence Kohlberg・Jane Loevinger・Robert Kegan・
Susanne Cook-Greuterをはじめとして、多数の発達心理学者が優れた測定法を
考案しています。

それらは非常に厳密なもので、たとえばSusanne Cook-GreuterのMaturity
Assessment Profile(MAP)の場合、測定法を修得するために、数年の時間が
必要となります(また、この場合、測定者自身が、トレイニングをはじめる段
階において、高度の発達段階に到達していることが参加条件のひとつとなりま
す)。その意味では、意識構造(深層構造)というのは、自然に把握できるよ
うになるものではなく、それを観察するための具体的な方法を修得し、活用す
ることで初めて明確になるものだといえるのです。

こうしたことを考慮すると、われわれが留意するべきことは、(自己、及び、
他者の)発達段階を「判断」するときには、くれぐれも慎重になる必要がある
ということです。

くわえて、それぞれの測定法が、ある特定の理論や視点をとおして人間を測定
するものであり、必ずしもその全貌を明らかにするものではないことを承知し
ておくことも重要となります。

心理臨床やコーチング等、対人援助にたずさわる者にとっては、同僚の専門的
な知見を求めながら、多様な方法論を利用して、クライアントの実像を包括的
に把握することが重要となるのです。

ウィルバーの著作を読むときに注意しなければならないのは、ウィルバーが
様々な種類の成長の重要性を認識しているということです。

われわれは、インテグラル理論が段階的な発達理論に立脚するものであるため
に、無意識のうちに、構造的・段階的な変化をともなう「変容」こそが真の変
化であり、成長であるとウィルバーが主張していると思い込んでしまいます。
しかし、実際には、ウィルバーの主張しているのは、そうではなく、むしろ、
その両方が重要であり、その両方を尊重するということです。

また、われわれが実際に変化や成長を経験するとき、そこでどのような変化が
生じるのかということは、意識的に選択できるものでもありません。

成長とは、「起こす」ものではなく、「起こる」ものです。

たとえわれわれが成長のための日常的に実践にとりくんでいるとしても、それ
そのものが成長を直截的に惹き起こしているのではなく、あくまでも、成長が
起きやすくなる条件を整えているに過ぎません。

つまり、窮極的には、われわれには成長そのものを惹き起こすことはできない
のです。

われわれにできるのは、変化や成長が実現したときに、それを跡付的に検証す
るということでしかないのです。

そして、そこで得られた洞察を参考にしながら、人間の神秘に光をあて、また、
日々の実践を修正・充実させていくことなのです。

いずれにしても、「変化」や「変容」というものについて探求するときに、直
接的に関連する「意識構造」や「意識状態」の問題というのは、インテグラル
理論において最も難解なところだといえます。

また、これは筆者自身も実際に発達段階測定のトレイニングを受けてみて、あ
らためて確認したのですが、内省をとおして直接的に知覚することのできる「
主観領域」(Zone 1 :"inside of interior")の情報と異なり、「客観領
域」(Zone 2 :"outside of interior")の情報というのは、そのための方
法論なしには、基本的に獲得しえないものです。

そのことは強調してもしきれないことです。

ただ、ウィルバーの著書には、多数の発達心理学者により収集されてきた情報
が、それらの情報を収集するために利用された方法論に関する詳細な説明なし
に、紹介されています。

結果として、意識構造というものが、その実情を把握するための方法と乖離し
て、単純化されて説明されているところがあるのです。

意識構造というものを概念としては理解することができても、その現実を実感
をもって理解しにくいところがあるとすれば、それは、こうした事情によると
ころがあるのかもしれません(結局のところ、方法論というものは、書籍で理
論的な理解を得るだけでなく、教師や同僚との共同作業をとおして、実際に実
践(praxis)をすることなしには、修得することができないものなのです)。

また、意識構造を探求するとは、本質的に生きた人間を対象とするものであり、
また、それそのものが教育的・治療的な意味をもつ営みです。

それは、単なる知的な好奇心をみたすための研究ではなく、倫理的・技術的に
細心の注意をはらってあつかうべきものであるのです。

理論書としての性格上、ウィルバーは、このあたりのことを詳細に説明してい
ませんが、これらは、インテグラル理論を実際の現場で活用しようとするとき
に、非常に重要となることがらです。

その意味でも、われわれは、ウィルバーの著書を足懸りにして、積極的に関連
領域の資料や研修を求めていく必要があります。
とりわけ、発達段階を測定するための基礎的な技術を習得することは、インテ
グラル思想を真に実践することができるようになるための重要なステップであ
るといえるでしょう。

*インテグラル理論について、またILPについて、何かお尋ねになりた
いことがありましたらご質問をお寄せ下さい。全てのご質問にお答えすること
は難しいかと思いますが、インテグラル理論やILPへの理解を深めるために、
多くの方と共有するのがふさわしいと思われるご質問については、エッセイな
どの形で取り上げさせていただきます。

【2】イベントのご案内

(1)インテグラル理論を一から学べます:インテグラル理論基礎講座(夏期)
(2010年7月19日(月祝)――開催済み、8月21日(土)――開催済み、9月18
日(土)、13:30〜17:00、アトリエ・イフ)

*『インテグラル理論入門I ウィルバーの意識論』の出版を受け、基礎講座を
もう一度開催します。入門書を読んで、更に詳しく知りたいと思った方にお勧
めです。1回ずつ申込可。
*会場の都合により、元々お知らせしていた予定から時間が変更になりました。
こちらの情報(開場−13:15、開始−13:30)が最新です。
*詳細・申込:http://integraljapan.net/info/seminar2010_kiso_summer.htm

(2)インテグラル理論の最先端を学びます!:9月のケン・ウィルバー研究会
(2010年9月26日(日)13:00〜16:00、アトリエ・イフ)
*今回は、インテグラル理論の重要概念の一つである「意識状態」と「意識構
造」について再度取り上げます。事前申込不要。お気軽にお立ち寄りください。
*詳細:http://blog.integraljapan.net/

(3)初めて実践に取り組みたい方に:ILP Basicワークショップ
(2010年10月30日(土)、10月31日(日)、いずれも10:00〜17:00、Bumb東京
スポーツ文化館)
*ILP(Integral Life Practice)の基本コンポーネントを一通りご紹介し、実習
していきます。『実践 インテグラル・ライフ』を読んで実践に興味を持たれ
た方にも是非お勧めです!
*宿泊込みのイベントではありません。宿泊が必要な方は、ご自分でお手配い
ただく必要があります。
*詳細・申込:http://www.integraljapan.net/info/seminar2010ilpbasic.htm

(4)より効果的なコミュニケーション・対人支援のために:インテグラル・コー
チング基礎〜発達段階測定〜
(2010年11月28日(日)、12月23日(木祝)、2011年1月30日(日)、各日と
も13:30〜17:00、アトリエ・イフ)
*インテグラル理論に基づき、「発達」の視点を対人支援・指導やコミュニケ
ーションに活用する方法論を学びます。対人支援・指導に携わっておられる方、
インテグラル理論を人間関係にも応用したい方に特にお勧めです。
*本講座の受講には、インテグラル理論について基礎的な知識があることを前
提としています。インテグラル理論について全く初めて触れる方で本講座の受
講にご興味をお持ちの場合は、インテグラル理論基礎講座などもご利用くださ
い。
*詳細・申込:http://www.integraljapan.net/info/seminar2010_coaching.htm

【3】編集後記

『インテグラル理論入門I』『実践 インテグラル・ライフ』の刊行以来、イベ
ントにも新しい方が増えました。大変嬉しいことです。今月の研究会は、初め
ての方にも、復習になる方にも参加しやすいテーマと思いますので、是非ふるっ
てご参加ください。また、こういう催しものをやってほしい、こういうサービ
スがほしいというご要望がありましたら、どうぞご連絡ください(千葉)。

*ご意見、ご感想などはお気軽にどうぞ! info@integraljapan.net
*本メールマガジンの送付先アドレスの変更、及び、配信不要の方は、
info@integraljapan.netまでご連絡ください。

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インテグラル・ジャパン・メールマガジン No. 41
配信日:2010年9月3日
発 行:インテグラル・ジャパン株式会社
http://www.integraljapan.net/
発行人:鈴木 規夫
編 集:千葉 絵里

*無断複製・転載を禁止します
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