Integral Japan Mail Magazine Vol.40

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Integral Japan Mail Magazine
No. 40 (2010/08/04)
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【1】鈴木 規夫のインテグラル・エッセイ「意識状態と意識構造」
【2】お知らせ(女性のためのインテグラル・ライフ・サークル休止のご案内)
【3】イベントのご案内
【4】編集後記
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皆さま、こんにちは。暑い日々が続いていますね。体調を崩されないよう、お
気をつけてお過ごしください。今号も、鈴木 規夫のインテグラル・エッセイ
を中心にお送りします。受講生の方のご質問にお答えする質疑応答形式になっ
ています。

【1】鈴木 規夫のインテグラル・エッセイ「意識状態と意識構造」

質問
インテグラル理論では、「意識構造」(structures of consciousness)と「
意識状態」(states of consciousness)という「意識」に関する2つの重要な
概念があると聞きました。これらは、わたしたちが人格的に成長していくうえ
で、どのように関連しているのでしょうか?

回答
心理学者のエイブラハム・マズロー(Abraham Maslow)は、非日常的な意識状
態の代表的な例である「至高体験」("peak experience")について長年に
わたり研究をしました。

このマズローの業績を俯瞰的に紹介した良著のひとつに、コリン・ウィルソン
(Colin Wilson)の『至高体験:自己実現のための心理学』(河出文庫)(New
Pathways in Psychology: Maslow and the Post-Freudian Revolution)とい
うものがあります。

このなかで、ウィルソンは、「至高体験は、われわれに何かをもたらすことに
よって癒しや救いを実現するのではなく、至高体験そのものが救済となるのだ」
という旨のことを述べています。

実際、非常に強烈な「至高体験」や「至福体験」を経験したことがある人であ
れば、ウィルソンの云わんとしていることは明らかであると思われます。
その瞬間において、わたしたちは、何かを発見したり、獲得したりするのでは
なく、全てがありのままに充たされ、癒されていることを認識することになり
ます。

そこでは、それまでの人生において、わたしたちの存在をとらえ、そして、衝
き動かしてきた「欠乏の感覚」(the sense of lack)が解消され、今、その
瞬間において、自己が、世界がありのままに充たされていることに気づくこと
になります。

そのとき、わたしたちは、自己の存在の内部から沸き上がる幸福感と至福感に
充たされて、安息することになります。

これはあくまでも至高体験のひとつの様態ですが、いずれにしても、こうした
非日常的な意識状態というものが、わたしたちの人生において、治癒と成長と
変容の重要な「触媒」(catalyst)となりえることを認識することができます。

実際、坐禅やヨガをはじめとして、数年〜数十年におよぶ継続的な実践生活を
営んでいる人々の相当数は、こうした「至高体験」や「至福体験」を契機とし
て実践をはじめるに至ったといいます。

その意味では、非日常的な意識状態とは、わたしたちが意識の探求者としての
「道」を歩みはじめるうえでの「転換点」となるものなのです。

今日においても、幅広い分野の人々が、「フロー状態」や「U理論」に対する
高い関心を示していますが、それなどは、こうした「転換点」を渇望する人々
の健全で純粋な興味に牽引されているものといえるでしょう。

また、「自己探求」や「自己実現」を主題にした多数の研修や合宿が開催され、
そこに多数の人々が参加していることは、日常を離れたところで、自己の人生
に新たな「視野」や「視点」をもたらしてくれる体験や洞察を求める人々の治
癒と成長の欲求を端的にあらわしているといえます。

インテグラル思想では、こうした非日常的な意識状態を、個人の治癒と成長を
促進するうえで、非常に重要なものとして位置づけています。

数々のインタビューの中でも、ケン・ウィルバーは、意識の構造的な変容を効
果的に実現していくためには、非日常的な意識状態を上手に利用することがた
いせつでるという意見を述べています。

非日常的な意識状態は、わたしたちに日常の意識状態を一時的に離脱(対象化)
することを可能としてくれます。

このとき、わたしたちは、普段、自らが無意識のうちにとらえられている「認
識の枠組」から自由になることが可能であることに気づくのです。
こうした気づきは、これまでとは異なる認識と存在のありかたを希求する「変
容」(transformation)の衝動を活性化することになります。

たとえば、ウィルバーの提唱する統合的な実践の枠組みであるILP(Integral
Life Practice)は、日常の実践生活の中に非日常的な意識状態を導入するた
めの仕組みを設置するための道具であるということができます。

非日常的な意識状態とは、通常、それが生まれるのを無為に待っていても、自
然に生まれるものではありません。

そのためには、具体的な「型」(praxis)を実行することが必要となるのです。

ILPとは、多様な型を統合するためのシステムであるといえます。
定期的に非日常的な意識状態を醸成するための仕組みを確立することで、実践
者が継続的に自己を対象化するための文脈を体験することができるよう支援を
するのです。

「日常」と「非日常」のあいだを定期的に行き来することをとおして、わたし
たちの意識は、徐々に既存の枠組の束縛を離れて、非日常的な意識状態が垣間
見せてくれていた新しい枠組みへと進化していくことになります。

ただし、ここで重要なことは、非日常的な意識状態の体験は、常に治癒や成長
を促進するわけではないということです。

そうした体験は、ときとして、意識の均衡状態を動揺させることをとおして、
体験者を危機的な状態に陥れることもあります("spiritual emergency")。

また、非日常的な体験を適切に咀嚼・内省・統合するためには、適切な解釈の
枠組が必要となります(実際、ウィルバーは、個人の成長にとり、非日常的な
体験そのものがもつ重要性は20%程であり、残りの80%は解釈にあると発言し
ています)。

結局のところ、意識状態とは、短時間のあいだ持続したあと(普通は数分〜数
時間、あるいは、数日〜数週間)終焉していくものです。
それは本質的に刹那的なものであり、それそのものは成長や成熟の証ではない
のです。

重要なことは、そうしたものに対する執着をてばなして、その果実を自己の中
に統合していくことであるといえます。

そして、そのためには、非日常的な意識状態に対する準備を日頃から鍛錬して
おくことが重要となるのです。

具体的には、それは、意識状態というものが本質的に体験者の意図や文脈の影
響下で構築されるものであることを認識することであり、また、それが、解釈
のしかた次第では、様々な病理的状態(例:自我肥大や躁鬱状態)をひきおこ
しかねないものであることに留意するということです。

いずれにしても、重要なことは、意識状態というものを賢明に利用することの
できる「実践上の叡智」を蓄積していくことだといえそうです。
こうした問題意識をもたないとき、わたしたちは、ややもすると、劇的な意識
状態を体験することを自己目的化する「霊的物質主義」("spiritual
materialism")に陥ることになります。

自己の意識状態の変化を観察する俯瞰的な視点を維持しながら、上手にその贈
り物を享受することのできる態度を涵養することが、実践という一生の旅を完
遂するための条件となるといえるのです。

参考資料:
ケン・ウィルバー(著)鈴木 規夫(訳)『実践 インテグラル・ライフ:自己
成長の設計図』春秋社(2010年)

*インテグラル理論について、またILPについて、何かお尋ねになりた
いことがありましたらご質問をお寄せ下さい。全てのご質問にお答えすること
は難しいかと思いますが、インテグラル理論やILPへの理解を深めるために、
多くの方と共有するのがふさわしいと思われるご質問については、エッセイな
どの形で取り上げさせていただきます。

【2】お知らせ(女性のためのインテグラル・ライフ・サークル休止のご案内)

昨年より月1回開催しておりました女性のためのインテグラル・ライフ・サー
クルですが、都合によりしばらく休止することになりました。再開時期は未定
です。再開する場合はメールマガジン、インテグラル・ジャパンのホームペー
ジ、女性サークルのブログ(http://womensintegrallife.seesaa.net/)でお
知らせいたします。

【3】イベントのご案内

(1)インテグラル理論を一から学べます:インテグラル理論基礎講座(夏
期)
(2010年7月19日(月祝)――開催済み、8月21日(土)、9月18日(土)、い
ずれも13:30〜17:00、アトリエ・イフ)

*『インテグラル理論入門I ウィルバーの意識論』の出版を受け、基礎
講座をもう一度開催します。入門書を読んで、更に詳しく知りたいと思った方
にお勧めです。1回ずつ申込可。
*会場の都合により、元々お知らせしていた予定から時間が変更になりました。
こちらの情報(開場−13:15、開始−13:30)が最新です。
*詳細・申込:http://integraljapan.net/info/seminar2010_kiso_summer.htm

(2)インテグラル理論の最先端を学びます!:8月のケン・ウィルバー研究会

(2010年8月29日(日)13:00〜16:00、アトリエ・イフ)
*ケン・ウィルバーの最新の理論モデル、Wilber 5は、その代表的著作『イン
テグラル・スピリチュアリティ』でも説明が簡略化されているために、これま
でウィルバーの本を読み込んできた方にとっても理解がなかなか難しい内容と
なっています。8月以降のケン・ウィルバー研究会では、Wilber 5について再
度取り上げていきます。事前申込不要。お気軽にお立ち寄りください。
*詳細:http://blog.integraljapan.net/

(3)初めて実践に取り組みたい方に:ILP Basicワークショップ
(2010年10月30日(土)、10月31日(日)、いずれも10:00〜17:00、Bumb東京
スポーツ文化館)
*ILP(Integral Life Practice)の基本コンポーネントを一通りご紹介し、実
習していきます。『実践 インテグラル・ライフ』を読んで実践に興味を持た
れた方にも是非お勧めです!
*宿泊込みのイベントではありません。宿泊が必要な方は、ご自分でお手配い
ただく必要があります。
*詳細・申込:http://www.integraljapan.net/info/seminar2010ilpbasic.htm

(4)より効果的なコミュニケーション・対人支援のために:インテグラル・コー
チング基礎〜発達段階測定〜
(2010年11月28日(日)、12月23日(木祝)、2011年1月30日(日)、各日と
も13:30〜17:00、アトリエ・イフ)
*インテグラル理論に基づき、「発達」の視点を対人支援・指導やコミュニケー
ションに活用する方法論を学びます。対人支援・指導に携わっておられる方、
インテグラル理論を人間関係にも応用したい方に特にお勧めです。
*本講座の受講には、インテグラル理論について基礎的な知識があることを前
提としています。インテグラル理論について全く初めて触れる方で本講座の受
講にご興味をお持ちの場合は、インテグラル理論基礎講座などもご利用くださ
い。
*詳細・申込:http://www.integraljapan.net/info/seminar2010_coaching.htm

【4】編集後記

本文中にもありましたように、インテグラル理論やILPに関するご質問を受け
付けております。メールマガジンご購読の皆さまの中には、遠隔地でイベント
にはなかなかおいでになれない方もいらっしゃるでしょう。また、『インテグ
ラル理論入門』『実践インテグラル・ライフ』をお読みになり、新たに疑問が
湧いた方もいらっしゃることと思います。全てのご質問にお答えすることは難
しいかもしれませんが、多くの方の参考に資すると思われるご質問については、
エッセイなどでできる限り取り上げていきますので、是非ご質問をお送りくだ
さい。ご質問を掲載する場合、主にプライバシー保護の観点から、適宜編集さ
せていただく場合がございます(千葉)。

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info@integraljapan.netまでご連絡ください。

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インテグラル・ジャパン・メールマガジン No. 40
配信日:2010年8月4日
発 行:インテグラル・ジャパン株式会社
http://www.integraljapan.net/
発行人:鈴木 規夫
編 集:千葉 絵里

*無断複製・転載を禁止します
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