Integral Japan Mail Magazine Vol.39

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Integral Japan Mail Magazine
No. 39 (2010/07/12)
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【1】 鈴木 規夫のインテグラル・エッセイ「Vision Logic段階の苦悩」
【2】 イベントのご案内
【3】 編集後記
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皆さま、こんにちは。今号は、鈴木 規夫のインテグラル・エッセイを中心に
お送りします。

【1】鈴木 規夫のインテグラル・エッセイ「Vision Logic段階の苦悩」

ある講座にて、受講生の方から、「人間の意識構造(認知構造)が発達する
ことで、私たちは幸福度を高めることができるのでしょうか? たとえば、非常
に高度の発達段階である"インテグラル段階"(注:Ken WilberのVision
Logic段階、Robert Keganの5th order、Susanne Cook-GreuterのSynthesist段
階)において、私たちは実存的な危機を体験することが指摘されています。果
たして"発達 = 幸福"という図式は成立するのでしょうか? 」というご質問
をいただきました。非常に重要なポイントが含まれていますので、エッセイの形
で皆さまにお答えしたいと思います。

ケン・ウィルバーは人間の意識構造(認知構造の)の発達を「自己中心性の減
少の過程」と説明していますが、これについては多数の発達心理学者が合意し
ているところのようです。

「自己中心性の減少」とは、簡単に言えば、現実(reality)をとらえるとき
に、多様な視点や観点を考慮することができるようになるということです。

自らの視点を絶対視するのではなく、周囲に生きる人々の視点、また、異文化
に生きる人々の視点、そして、さらには将来世代の視点や他の生物種の視点等
を考慮することができる「意識の包容力」を高めていくプロセスということが
できるでしょう。

こうした意識の発達は、私たちに現実の複雑性をよりありのままに尊重するこ
とを可能とします。

自らのとらえた現実というものがあくまでも特定の「レンズ」をとおして眺め
たものであり、そこには必ず盲点があることを自覚するとき、私たちは異なる
「レンズ」を求めることができるようになります。

意識構造の発達とは、異なる「レンズ」を求めるための積極性と謙虚さを育み、
また、多様な「レンズ」をとおして開示された情報を統合するための統合力
(秩序構成力)を高めることになるのです。

しかし、これは、また、同時に過酷なプロセスともなります。

高度の意識構造(認知構造)を確立するとは、必然的に世界というものが、ひ
とつの視点や思想や理論をとおしては完全にとらえることのできないものであ
ることを認識することです。

そこには、常に私たちの期待を裏切るような新しい領域や次元や情報が存在し
ており、私たちは、それまでに自己の拠所としていた世界観や価値観を継続的
に修正していくことを求められるのです。

ある意味では、それは、確固とした存在の基盤や拠所を喪失するプロセスであ
り、また、世界というものが、実にままならないものであることを自覚しつづ
けるプロセスであるといえます。

また、こうしたプロセスは、必然的に、それまでには経験することのなかった
ような不安や苦悩を生みだすことになります。

そこには、世界を深く、広く見渡すことができるがゆえの、精神的な重圧が生
まれることになるのです。

もちろん、そこには、そうした透徹した視野をとおして現実をとらえることが
できることの自由や柔軟性がもたらされることになります。
しかし、そこには、紛れもなく高次の段階に特有の苦悩と重圧がもたらされる
ことになるのです。

このように考えると、意識構造の発達というものが決して「安逸」や「幸福」
に直結するものではないことが理解されます。

むしろ、それは、低次の発達段階においては経験することのなかった質的に重
い苦悩や重圧を生みだすプロセスであるということができます。

また、それは、エイブラハム・マズロー(Abraham Maslow)をはじめとして、
多数の発達心理学者が指摘するように、周囲の人々とのあいだに様々な軋轢を
生みだしかねない潜在的な危険を内蔵したプロセスであるともいえます。

ただし、意識構造の発達は、また、私たちの精神的な耐久性(resiliency)を
高めてくれることになります。

発達のプロセスは私たちの不安と苦悩を深めますが、また、同時にそれらを受
容して、それらと共存していく能力をもたらしてくれるのです。

即ち、発達とは、私たちを実存的に脅かしながらも、また、そうした状態にお
いて絶望したり、麻痺したりすることなく、生きていくための根源的な強靭性
を賦与してくれるものでもあるのです。

その意味では、意識構造(認知構造)の発達とは、意識がとらえることのでき
る現実の幅(span)と質(depth)を向上することをとおして、個人の体験を
拡張するものであり(つまり、それは「歓び」と「苦しみ」の両方が拡張され
るということです)、また、そうした体験の拡張を耐えることのできる強靭性
を育むものであるといえるのです。

いずれにしても、私たちの期待とは少々異なり、「発達 = 幸福」とはいかな
いのが実際のところのようです。

あえていえば、発達とは、「幸福」と「苦悩」の両方をもたらすものであると
いえます。

私たちが発達というものについて探求するときに留意すべきことは、そうした
両義性に着目することだといえます。

意識構造の発達とは、必ずしも私たちに救済をもたらしてくれるものではあり
ません。

それは、刻々と変化するこの世界のなかで、様々な課題や要求に応えていこう
とするなかで、私たちが自己の存在を賭して已むに已まれず実現していくプロ
セスです。

そして、その過程は正に「地獄」と形容されるほどに過酷なものとなります。

自らの直面する課題や問題を解決するための「解答」として確立された高次の
発達の段階はそこに新たな課題と問題を生みだすことになります。

そして、それらは、将来的に、私たちをさらなる発達へと導いていくことにな
るのです。

これは、この世界が変化をつづけるかぎり停止することのない、果てしないプ
ロセスであるといえます。

その意味では――あらゆる発達のとりくみがさらなる発達への準備を整えるも
のであるという意味において――発達とは本質的に悲劇的な性格を帯びたもの
であるといえます。

このようにとらえなおすとき、私たちは意識構造の発達そのものを目的として、
その実現に過剰に執着することの無意味さを認識することができます。

重要なことは、そのときに自らの生存条件が提示する課題や問題に対応するた
めに適した意識構造を確立するということです。

高次の意識構造を確立することは、それそのものとしては意味をもたないので
す。

そして、発達の視点にもとづいて、人間を理解するとは、生活環境の変化のた
だなかにおいて、人間の適応の営みとして有機的に展開する――つまり、それ
は、意志の力で恣意的にひきおこすことのできるものではないのです――意識
構造の発達を的確に支援できる視点と技術を確立することであるといえるので
す(鈴木 規夫)。

【2】イベントのご案内

(1)お気軽にお立ち寄りください:ケン・ウィルバー研究会
(2010年7月18日(日)13:00〜16:00 アトリエ・イフ)
*現在執筆中の『インテグラル理論入門II』の内容・意図についてご紹介しま
す。
*どなたでもご参加いただけます。事前申込は必要ありません。
*詳細:http://blog.integraljapan.net/

(2)まもなく開講! インテグラル理論基礎講座(夏期)
(2010年7月19日(月祝)、8月21日(土)、9月18日(土)、いずれも13:30〜
17:00、アトリエ・イフ)
*『インテグラル理論入門I ウィルバーの意識論』の出版を受け、基礎講座を
もう一度開催します。入門書を読んで、更に詳しく知りたいと思った方にお勧
めです。1回ずつ申込可。
*会場の都合により、元々お知らせしていた予定から時間が変更になりまし
た。こちらの情報(開場−13:15、開始−13:30)が最新です。
*詳細・申込:http://integraljapan.net/info/seminar2010_kiso_summer.htm

(2)ゆったりくつろいだ女性の集まりです:女性のためのインテグラル・ライ
フ・サークル(2010年7月28日(水)19:00〜21:00 アトリエ・イフ)
*五月より、リーアン・アイスラー『ゼロから考える経済学――未来のために
考えておきたいこと』(ISBN-10: 4862760570)の読書会を行っています。
*四月より、IJ Members会員以外の方にもご参加いただけるようになりました。
インテグラル・アプローチに興味があり、参加規約にご賛同いただける女性で
あれば、どなたでもご参加いただけます。詳しくは、詳細ページをご覧下さい。
*詳細:http://womensintegrallife.seesaa.net/
*申込:http://integraljapan.net/info/wilp_info.htm

(3)初めて実践に取り組みたい方に:ILP Basicワークショップ
(2010年10月30日(土)、10月31日(日)、いずれも10:00〜17:00、Bumb東京
スポーツ文化館)
*ILP(Integral Life Practice)の基本コンポーネントを一通りご紹介し、実
習していきます。『実践 インテグラル・ライフ』を読んで実践に興味を持た
れた方にも是非お勧めです!
*宿泊込みのイベントではありません。宿泊が必要な方は、ご自分でお手配い
ただく必要があります。
*詳細・申込:http://www.integraljapan.net/info/seminar2010ilpbasic.htm

(4)より効果的なコミュニケーション・対人支援のために:インテグラル・
コーチング基礎〜発達段階測定〜
(2010年11月28日(日)、12月23日(木祝)、2011年1月30日(日)、各日と
も13:30〜17:00、アトリエ・イフ)
*インテグラル理論に基づき、「発達」の視点を対人支援・指導やコミュニ
ケーションに活用する方法論を学びます。対人支援・指導に携わっておられる
方、インテグラル理論を人間関係にも応用したい方に特にお勧めです。
*本講座の受講には、インテグラル理論について基礎的な知識があることを前
提としています。インテグラル理論について全く初めて触れる方で、本講座の
受講にご興味をお持ちの場合は、7月19日より始まるインテグラル理論基礎講
座などもご利用ください。
*詳細・申込:http://www.integraljapan.net/info/seminar2010_coaching.htm

【3】編集後記

インテグラル理論入門書、ILP(Integral Life Practice)の翻訳の刊行を受
けて、新しい方からの受講申込、メールマガジン購読申込が増えてきました。
大変嬉しいことです。今後、更に皆さまのニーズにあった講座やサービスを提
供していきたいと思っております。「こういう講座を開催してほしい」等、ご
要望がありましたら、どうぞお聞かせください(千葉)。

*ご意見、ご感想などはお気軽にどうぞ! info@integraljapan.net
*本メールマガジンの送付先アドレスの変更、及び、配信不要の方は、
info@integraljapan.netまでご連絡ください。

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インテグラル・ジャパン・メールマガジン No. 39
配信日:2010年7月12日
発 行:インテグラル・ジャパン株式会社
http://www.integraljapan.net/
発行人:鈴木 規夫
編 集:千葉 絵里

*無断複製・転載を禁止します
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