Integral Japan Mail Magazine Vol.37

******************************************************************
Integral Japan Mail Magazine
No. 37 (2010/06/09)
*******************************************************************
-----INDEX---------------------------------------------------------
【1】翻訳出版のお知らせ『実践 インテグラル・ライフ:自己成長の設計図』
【2】鈴木 規夫のインテグラル・エッセイ「世界を瞑想する」(下)
【3】イベントのご案内
【4】編集後記
-------------------------------------------------------------------

皆さま、こんにちは。先日、弊社代表:鈴木 規夫の手になる『実践 インテ
グラル・ライフ:自己成長の設計図』が春秋社より刊行されました。今号では、
翻訳者としての思いを綴ったエッセイと、「世界を瞑想する」(下)の二本
立てでお送りします!

【1】翻訳出版のお知らせ『実践 インテグラル・ライフ:自己成長の設計図』

ケン・ウィルバーの最新著作『実践 インテグラル・ライフ:自己成長の設計
図』(Integral Life Practice: A 21st-Century Blueprint for Physical
Health, Emotional Balance, Mental Clarity, and Spiritual Awakening)が、
先日、春秋社より出版されました。

翻訳作業には、2009年の春頃より1年の時間をかけてとりくんできましたが、
多数の方々の御協力を得て、漸くここに書籍として刊行することができたこと
に安堵しています。

あらためて、この場を御借りして、この著作の翻訳・出版に直截的・間接的に
支援をいただいた関係者の方々に御礼を申し上げます。

1995年に出版された『進化の構造』(Sex, Ecology, Spirituality: The Spirit
of Evolution)を契機として、ケン・ウィルバーの思想は、「インテグラ
ル思想」といわれるひとつの思想運動に変貌することになります。

これにより、ウィルバーの思想は、それまでの精神領域の見取図としての枠組
みを超えて、個人と集合、そして、内面と外面を関係付ける包括的な統合理論
して確立されることになるのです。

また、このことは、ウィルバーの思想を知的探求と実践的探求の両要素を相補
的なものとして包含する実践思想として明確に確立することになりました。
統合的な視点にもとづいて探求するとは、現実を可能な限り幅ひろく抱擁する
ことを意味します。

必然的に、そうしたとりくみは、それに従事している探求者の存在そのものを
も批判と探求の対象とすることを意味します。

人間の探求は常にこの意識をとおして執り行われることになります。
人間には、全ての偏見を排除して、世界をありのままに見詰めて、また、世界
をありのままに把握することはできません。

そこには、どうしてもそうした探求にとりくむ「私」が影響を及ぼすことにな
るのです。

その意味では、統合的な探求にとりくむとは、探求者としての「私」そのもの
を「問題」としてとらえて、その変容にとりくむことを必須の要素として位置
づけものといえます。

また、統合的であるとは、「探求すること」と「生活すること」が、きりはな
すことのできるものではなく、それらが本質的に同じものであることを認識す
ることを意味します。

統合的であるとは、自らにあたえられている諸々の能力を動員して、それらを
倫理的な直感にもとづいて開発・発揮することが、生きることの根源的な歓び
をもたらしてくれることを認識することです。

そして、そうした成長と変容の過程において開示される高次の視点にもとづい
て世界と出逢うことが探求そのものであるととらえるのです。

必然的に、私たちは、それぞれの生活環境に適合した、自己の治癒と成長の実
践にとりくむことを求められることになります。

インテグラル思想を特徴付ける強烈な実践への志向性は、こうした問題意識に
支えられたものであるといえます。

実際、CIIS(California Institute of Integral Studies)に在籍中、インテ
グラル・コミュニティの関係者の方々と一緒に対話や作業をする様々な機会を
あたえられましたが、日常生活の中で継続的な実践にとりくむということは、
全ての関係者が共有する重要な要素でした(因みに、CIISで毎週開催されてい
たケン・ウィルバー研究会では、討議をはじめるまえに、1時間程の太極拳を
するということが慣わしでした)。

異なる文化的な背景をもつ関係者が対話をし、そこに共通認識を確立すること
ができるためには、日々の変容の実践をとおして――たとえそれが刹那的なも
のであれ――それぞれの関係者が「個」としての制約を超越する体験を有して
いることが重要だったのです。

それは、共通の「概念」や「言語」をもつということと同等に重要なことであっ
たとさえいえます。

このように、統合的であるとは、実践にとりくむことをその重要な要素として
抱擁するありかたであるといえます。

こうした発想にもとづいて、現在、インテグラル思想は、多様な修行伝統の実
践者をまきこんで、実務的・実践的な思想として展開しています。

今回、翻訳・出版された『実践 インテグラル・ライフ』は、そうしたとりく
みの成果をとりまとめたものといえます。

『実践 インテグラル・ライフ』の目的は、統合的実践の方法論である「イン
テグラル・ライフ・プラクティス」(Integral Life Practice・ILP)を紹介
することにあります。

ウィルバーは、これまでにもILPの概要を諸々の著作において紹介しています
が、その内容について詳細に説明をするのは、これがはじめてのことになりま
す。

とりわけ、この著作の特徴は、その具体性にあります。

ウィルバーの統括のもと、各領域の専門家である4人の執筆者によって共同執
筆されたこの作品には、「体」(Body)・「心」(Mind/Heart)・「魂」
(Spirit)・「影」(Shadow)を機軸とする主要な実践の領域において、読者
がとりくむことのできる具体的な実践の方法が数多く詳細に紹介されています。

それらは、日常生活のなかで気軽にとりくむことのできるものでありながら、
深い洞察と癒しと成長をもたらしてくれるものでもあります。

それらを取捨選択して、日常の中に組込むことをとおして、読者は、統合的な
実践を設計することができます。

また、そこには、「実践」という紆余曲折する旅路を歩んでいくなかで、私た
ちが不可避的に直面することになる様々な課題や混乱にどう向き合い、また、
どうそれらに対処するべきなのかということに関して、非常に実務的な洞察が
呈示されています。

その意味では、この作品は、自身の実践生活にあらたな要素をくわえようとし
ている読者の方々だけではなく、実践という一生のプロセスをどう歩んでいく
べきなのかというより大局的・本質的な課題と格闘している高度の実践者にも
非常に有益なものということができます。

実践には、具体的な活動にとりくむ「行動の側面」(Doing)とそれらの具体
的な活動を支える「態度の側面」(Being)があり、それらが「生きる」とい
うこの根源的な文脈の中で展開されていきます。

ILPは、そうした実践の多面性と多元性に着目して、読者がそれを一生をとお
して完走するための基礎的な枠組みを示すのです。

ある意味では、インテグラル思想の醍醐味とは、実際に実践にとりくみことを
とおして、はじめて理解されるものといえます。

そうした要素を欠くとき、インテグラル思想は単なる「地図」としての価値し
かもつことができません。

統合的であることができるとは、統合的に観察し、解析することができるだけ
でなく、統合的に実感し、思考し、対話し、行動することができることでもあ
るのです。

その意味では、『実践 インテグラル・ライフ』は、インテグラル思想の絶好
の入門書であるといえます。

それは、概念的・理論的に丁寧な説明を提供しながら、同時に読者を実践に誘
うものでもあります。

インテグラルであることができるとは――また、Vision Logicの意識段階への
変容を実現していくとは――そうした誘いに応えることのなかに生まれるもの
であるといえるのです。

ウィルバーはこれまでに多数の作品を執筆してきましたが、その最終章におい
て、あたかも砂の上の曼荼羅を掻き消すように、それまでに無数の概念と議論
を尽くして構築してきた自己の理論体系を「虚構」であるとして「放棄」しま
す。

そうした行為の中に読者は、「理論」(地図)と「実践」(領域)が相反する
ものではなく、循環しながら、相互に衝突しあい、また、相互に支えあう、ダ
イナミックな緊張と調和のなかにあることを察知します。

こうした執筆者としてのありかたに、ウィルバーがVision Logic段階の意識構
造を明確に体現していることを窺い知ることができます。

統合的であるとは、真に有意義な実践生活を可能とする対極的な要素を賢明に
統合することを意味します。

それは、表面的には相容れないように映じる対極的な要素が、人間の生という
文脈の中でダイナミックに統合されえることを認識することなのです。

その意味では、ILPとは――そして、また、世界に存在する多数の洗練された
実践法は――そうしたダイナミックな統合的日常を生きるための道案内といえ
るのです。

翻訳者として、この『実践 インテグラル・ライフ』という著作が、人生のあ
らゆる季節にあるひとに、そして、成長のあらゆる段階にあるひとに貴重な洞
察をもたらしてくれるものであることを切に祈念しています(鈴木)。

*書籍情報
『実践 インテグラル・ライフ:自己成長の設計図』
ケン・ウィルバー(著)鈴木 規夫(訳)
春秋社(2010年5月)
ISBN:978-4-393-36053-8
税込価格:4,410円

【2】鈴木 規夫のインテグラル・エッセイ「世界を瞑想する」(下)

(第36号より続く)しかし、実際には、私たちのなかには、「私」が「私」の
人生を生きているという感覚と共に世界が、時代が、あるいは、人類が、生命
が「私」を生きているという感覚が息づいています。そして、正にそれゆえに、
私たちは、自己の生き方について探求するときに、「私は何を求めているの
か」と問うだけでなく、また、「世界は何を求めているのか」と問うのです。
また、私たちが、日常のある瞬間において、ふと自己の生き様に「恥ずかしさ」
(shame)を覚えるとき、そこで自己を意識しているのは、この「私」ではなく、
この「私」を見つめ、そして、この「私」を生きている何ものかにほか
なりません。

神学者であり、心理学者であるジェイムズ・ファウラー(James Fowler)は、
「恥」(shame)の感覚とは、自己の高次の(あるいは深層的な)可能性の働
きかけに対して自己を開くことができないときに醸成されるものであると説明
しますが(Faithful Change: The Personal and Public Challenges of
Postmodern Life. Abingdon Press)、その可能性とは、私の「所有物」とし
て「私」のなかにあるものではなく、「私」を超えるものとして、あるいは、
「私」と異なるものとしてあるものです。そして、もしかしたら、それは、
いったん「私」の内部にあるものとして見なされた瞬間にその神聖さ
(numinosity)を喪失してしまうものなのかもしれません。

その意味では、1人称の瞑想に過度に執着することは、スピリット・モジュー
ルを――そして、ILPそのものを――支える神聖の感覚を失わせることになる
のかもしれません。そして、今日、これほどまでに「能力開発」や「自己実現」
というイデオロギーが熱烈に擁護されていながら、そこに痛々しいほどの飢
餓感と空虚感が漂うのは、そこにこうした感覚を育むための仕組みが保障され
ていないからなのかもしれません。

2人称の瞑想の基礎とは、他者の視点を通して、自己を見つめるという、私た
ちが普段何気なくしている行為のただなかにあるようです。その根源に息づく
のは、ファウラーが述べるように、自己がこの世界において祝福された存在と
してあることに対する基本的な信頼です。そうした祝福を受けた存在であるこ
とを実感することができるからこそ、私たちは、自らがその恩寵に値する生を
生きることができているのかを真摯に問うことができるのでしょう。その意味
では、2人称の瞑想とは、この世界に生命をあたえられるということそのもの
を通して自己に天賦されている慈愛を直感して、それに応えようとする自然な
責任の発現といえます。

いうまでもなく、こうした慈悲は重層的なものとして経験されます。私たちは、
生命の歴史の恩恵を受けているだけではなく、人類の歴史の恩恵を、民族の
歴史の恩恵を、そして、家族や友人や同僚の慈愛をいただいて、ここに存在し
ています。

インテグラル思想は、人間を重層的・複合的な存在(compound existence)と
してとらえますが、それはこうした現実を示すものといえます。そして、2人
称・3人称の瞑想とは、その本質において、そうした恩恵に対して応答をして
いく営みといえるのです。

たとえば、日本では、歴史大河ドラマに対する衰えることのない情熱的な関心
が維持されていますが、そこには、歴史上の偉大な人物の生き様を民族的な遺
産としていただいていることに対する純粋な感謝の気持ちが息づいています。
また、そこには、そうした偉大な生き様のなかに体現されている価値(真・善・
美)を実際に自己の人生に反映させたいという高邁な精神が息づいています。
普通の人々の意識のなかにごく自然に働いている、こうした精神の作用のなか
にも2人称・3人称の瞑想を可能とする畏敬と感謝が息づいているのです。ILP
とは、そうしたものを意識的な実践に高めるということであるといえます。

確かに世界は本質的に不可知性なものではありますが、少なくとも、同時代の
ダイナミクスの本質というものは直感を通して把握することができるのかもし
れません。

実際、全くの孤独のなかで生みだされたように見える、ひとりの芸術家の作品
が、その時代の深層で働いていた集合的なダイナミクスを見事に体現していた
ということを私たちはこれまでに何度も目撃しています。そのような集合的な
意味を背負うものとして生みだされた作品に触れるとき、私たちは、それが自
己の希求していたものに形をあたえてくれるものであるかのように思います。
また、そうした作品には、創造者が単に自己の能力を発揮しただけでは到達す
ることのできない超絶した存在感が漂うことになります。それは、その創造者
が創造したものであるとともに、何ものかがその個人をして創造させたもので
あるかのような印象をあたえるのです。

著書『ILP』のなかで、著者は、後期Vision Logic段階("turquoise")にお
いて、個人は、社会や時代等の集合的な領域の真実を瞬時のうちに直感的に把
握することになると指摘します。その意味では、Vision Logic段階の行動論理
を確立するとは、自己の存在を集合的なダイナミクスに開いて、そこに息づく
希求を自己の存在を通して表現・体現するということであるといえそうです。

そのように考えるとき、2人称の実践とは――それが人間の自然の行為である
だけでなく――私たちが、高次の発達段階の視野と叡智にもとづいて、意識的
に時代を生きようとするときに、非常に重要な貢献をしてくれるものとなると
いえそうです(この項終わり)。

【3】イベントのご案内

(1) インテグラル理論中級講座
(第1回:開催済み、第2回:開催済み、第3回:6月19日(土)、13:30〜17:00
アトリエ・イフ)
*インテグラル理論を実践の枠組みとして利用するための基礎を学びま
す。入門講座・基礎講座・ILPなどで学び、リーダーシップを発揮していくた
めに、また対人関係や仕事においてインテグラル理論を活用していくために、
一歩踏み込んだ学習をしたい方に特にお勧めです(受講資格の詳細については、
弊社HPでご確認ください)。1回ずつのお申込が可能ですので、まだ申し込
めます。
*詳細・申込:http://integraljapan.net/info/seminar2010_tyukyu.htm

(2) ケン・ウィルバー研究会(6月26日(土曜日)13:00〜16:00、アトリエ・
イフ)
*6月1日に刊行されたケン・ウィルバーの最新著作『実践 インテグラル・ラ
イフ』(春秋社)を取り上げます。約一年にわたり、この書籍の翻訳に携わっ
てきた主催者から、この作品の特色や重要なポイント等について説明をします。
お申込は特に必要ありません。お気軽にお立ち寄りください。
*詳細:http://blog.integraljapan.net/

(3) 女性のためのインテグラル・ライフ・サークル
   (2010年6月30日(水)19:00〜21:00 アトリエ・イフ)
*五月より、リーアン・アイスラー『ゼロから考える経済学――未来のために
考えておきたいこと』(ISBN-10: 4862760570)の読書会を行っています。
*四月より、IJ Members会員以外の方にもご参加いただけるようになりました。
インテグラル・アプローチに興味があり、参加規約にご賛同いただける女性
であれば、どなたでもご参加いただけます。詳しくは、詳細ページをご覧下さ
い。
*詳細:http://womensintegrallife.seesaa.net/
*申込:http://integraljapan.net/info/wilp_info.htm

(4) インテグラル理論基礎講座(夏期)
(2010年7月19日(月祝)、8月21日(土)、9月18日(土)、いずれも13:30-
17:00、アトリエ・イフ)

*『インテグラル理論入門I ウィルバーの意識論』の出版を受け、基礎
講座をもう一度開催します。入門書を読んで、更に詳しく知りたいと思った方
にお勧めです。1回ずつ申込可。
*会場の都合により、元々お知らせしていた予定から時間が変更になりました。
こちらの情報(開場−13:15、開始−13:30)が最新です。
*詳細・申込:http://integraljapan.net/info/seminar2010_kiso_summer.htm

*ご意見、ご感想などはお気軽にどうぞ! info@integraljapan.net
*本メールマガジンの送付先アドレスの変更、及び、配信不要の方は、
info@integraljapan.netまでご連絡ください。

-------------------------------------------------------------------
インテグラル・ジャパン・メールマガジン No. 37
配信日:2010年6月09日
発 行:インテグラル・ジャパン株式会社
http://www.integraljapan.net/
発行人:鈴木 規夫
編 集:千葉 絵里

*無断複製・転載を禁止します
-------------------------------------------------------------------

   Copyright (c) 2010 INTEGRAL JAPAN All Rights Reserved