主要著作紹介

鈴木 規夫

ウィルバーは、自らの執筆作業を次のように説明している。

あるとき、気がつくと、まるでどこかから降りてきたかのように、作品が頭の中にできあがっているのです。わたしにとって、執筆の作業というのは、このすでに完成されている作品を実際の文字にしていくことなのです。

ウィルバーの作品を読むにあたり、それらが、いずれも、膨大な文献調査のみならず、そうした「霊感」に支えられているものであることを留意すると良いだろう。芸術作品のみならず、真にすぐれた創造作品は、しばしば、ウィルバーの報告するように、日常の継続的な営為のみならず、「霊感」の「力」を借りて可能となるものである。ウィルバーの著作に特徴的な、あたかも宇宙(コスモス)そのものを俯瞰するような視点というのは、そうした作用なしには、獲得し得ないものであろう。

現在、ウィルバーの著作は、基本的に、すべてが購入可能である。尚、ウィルバーの全著作は、1999年〜2000年には、著作集(Collected Works of Ken Wilber, Volume 1〜8)としてまとめられ、Shambhala Publications(http://www.shambhala.com/)より出版されている。また、各巻の冒頭には、著者が、詳細な紹介文を寄稿しており、今日までの創作活動のなかで、収録作品がどのような位置を占めるものであるのかが理解できるようになっている。それらの寄稿文は、すべて上記で無料ダウンロードすることができるので、参照していただきたい。

第1期

The spectrum of consciousness (1977/2002)

*訳題 『意識のスペクトル』

ウィルバーの最初の著作である。この作品により、ウィルバーは、瞬く間のうちに、その稀有の才能を世界に知らしめることになる。ウィルバー、弱冠23歳のときのことであった。ここで提唱される意識のモデルは、“Romantic”と形容されており、ウィルバー思想の第1期(“Wilber-One”)を形成するものである。

No boundary: Eastern and Western approaches to personal growth (1979/2001)

*訳題 『無境界:自己成長のセラピー論』

“The Spectrum of Consciousness”の内容を(著者いわく)「中・高校生にも理解できるように」簡略化したものである。

第1期の思想的特徴についてのウィルバー自身の詳細なコメントは、下記のURLを参照いただきたい。

http://wilber.shambhala.com/html/books/cowokev1_intro.cfm/

第2期

The Atman Project: A transpersonal view of human development (1977/1996)

*訳題 『アートマン・プロジェクト:精神発達のトランスパーソナル理論』

“The Spectrum of Consciousness”の発表後、ウィルバーは、自らの提唱した理論が重大な問題を内包していることを認識する。この認識を契機として、ウィルバーは、数年間におよぶ思想的な危機を体験することになるが、そこから生みだされたのが、この作品である。“The Atman Project”において展開されるモデルは、瞑想の実践中に想起されたものだという。ここで提唱される意識のモデルは、“evolutionary and developmental”と形容されており、ウィルバー思想の第2期(“Wilber-Two”)を形成するものである。

Up from Eden: A transpersonal view of human evolution (1981/1996)

*訳題 『エデンから:超意識への道』

“The Atman Project”のなかで展開した個人の意識発達のモデルを、人類の集合的な意識発達を解明するために応用した作品。ウィルバーは、“The Atman Project”と“Up from Eden”という作品をとおして、小宇宙(micro-cosmos)大宇宙と(macro-cosmos)という関連した2つの領域を有機的に関係づけることに成功する。こうした視点は、その後、“Sex, Ecology, Spirituality”において、より成熟したかたちで表現されることになる。

第2期の思想的特徴についてのウィルバー自身の詳細なコメントは、下記のURLを参照いただきたい。

http://wilber.shambhala.com/html/books/cowokev2_intro.cfm/

第3期

Eye to eye: Quest for the new paradigm (1984/2001)

*訳題 『眼には眼を』

論文集。今やトランスパーソナル研究において古典的価値をもつ論文として認められている“The Pre/Trans Fallacy”や“A Mandalic Map of Consciousness”が収録されている。また、この作品では、複数の自律した発達ラインの存在を指摘するモデルが提唱され、ウィルバー思想の第3期(“Wilber-Three”)が開始を告げられた。

A sociable God: Toward a new understanding of religion (1984/2005)

*訳題 『構造としての神:超越的社会学入門』

1960年代以降、合衆国では、東洋宗教の指導者による教えのもと、多数の新興宗教組織が発足した。そうした新潮流は、合衆国における宗教状況に多様性をもたらすことをとおして、多くの成果をもたらしてくれたが、また、カルト団体の跳梁等、多くの問題を生みだした。この著作のなかで、ウィルバーは、そうした現代の宗教事情を俯瞰したうえで、それらの性質を理解する貴重なヒントをあたえてくれる。

Quantum questions: Mystical writings of the world's great physicists (1984/2001)

*訳題 『量子の考案:現代物理学のリーダーたちの神秘観』

Transformations of consciousness: Conventional and contemplative perspectives on development (with Jack Engler & Daniel Brown) (1986/2006) 未訳

The Journal of Transpersonal Psychologyに掲載された、ウィルバーをはじめとする複数の研究者による研究論文をまとめたもの。この作品は、妻・トレヤとの闘病生活期間中、ウィルバーが手懸けた唯一の作品である。

Spiritual choices: The problem of recognizing authentic paths to inner transformation (with Dick Anthony & Bruce Ecker) (1987) 未訳

スピリチュアリティという営みに取り組むにあたり、そこに内在する諸々の危険性に注意をはらい、それらに成熟した判断能力を発揮しながら非常に重要になる。この作品には、こうした問題に対応するうえで貴重な洞察をあたえてくれる、この領域における代表的な研究者や実践者による論文や対話が掲載されている。

Grace and grit: Spirituality and healing in the life and death of Treya Killam Wilber (1991/2001)

*訳題 『グレース&グリット:愛と魂の軌跡』

ウィルバーの3年間におよぶトレヤとの結婚生活――それは過酷な闘病生活であった――の模様をトレヤの遺した日記を交えながら綴った作品。この著作についてのウィルバー自身の詳細なコメントは、下記のURLを参照していただきたい。

http://wilber.shambhala.com/html/books/cowokev5_intro.cfm/

第3期の思想的特徴についてのウィルバー自身の詳細なコメントは、下記のURLを参照いただきたい。

http://wilber.shambhala.com/html/books/cowokev3_intro.cfm/

第4期

Sex, ecology, spirituality: The spirit of evolution (1995/2001)

*訳題 『進化の構造』

ウィルバーの思想を――トランスパーソナル思想ではなく――インテグラル思想としての確立した記念碑的著作。この作品により、発達を4つの領域(“quadrants”)により構成される文脈のなかで立ちあがる現象としてとらえる、ウィルバー思想の第4期(“Wilber-Four”)が提唱されることになる。尚、この著作についてのウィルバー自身の詳細なコメントは、下記のURLを参照いただきたい。

http://wilber.shambhala.com/html/books/cowokev6_intro.cfm/

A brief history of everything (1996/2001)

*訳題 『万物の歴史』

“Sex, Ecology, Spirituality”の内容を簡潔にまとめた作品で、著者自身、この作品を“A Theory of Everything”とならんでインテグラル思想への最適な入門書と見なしている(個人的には、“A Theory of Everything”にくらべて、断然“A Brief History of Everything”が内容的に充実していると思う)。また、全編を対話形式でまとめるという実験的なこころみもなされている。

The eye of spirit: An integral vision for a world gone slightly mad (1997/2001)

*訳題 『統合心理学への道:「知」の眼から「観想」の眼へ』

“Sex, Ecology, Spirituality”は、とりわけトランスパーソナル研究の領域において、大きな反響をよんだ。San Franciscoにある研究機関・CIIS(California Institute of Integral Studies)では、数日間におよぶウィルバー思想についての学術会議が開催された。そこに参加した研究者により執筆された論考とそれらへのウィルバー自身の応答が“Re-Vision”誌に3号にわたり掲載されることになる(これらの対話は、後に、Donald Rothberg & Sean Kelly (Eds.) (1998). Ken Wilber in Dialogue: Conversations with Leading Transpersonal Thinkers. Quest Books.としてまとめられる)。“The Eye of Spirit”は、こうしたトランスパーソナル研究をはじめとする研究領域の関係者との対話を通して浮き彫りにされた論点を整理するためにまとめられた論文集である。

The essential Ken Wilber: An introductory reader (1998) 未訳

過去の作品からの抜粋により構成されている作品。インテグラル思想の各重要概念に関する、ウィルバーの説明が簡潔にまとめられている。

The marriage of sense and soul: Integrating science and religion (1998)

*訳題 『科学と宗教の統合』

メインストリームの出版社(Random House)から出版されたウィルバーのはじめての著作。これも、また、インテグラル思想への格好の入門書ということができるだろう。

One Taste: Daily reflections on integral spirituality (1999/2000)

*訳題 『ワン・テイスト:ケン・ウィルバーの日記』

1997年のウィルバーの日記。ここでは、日常生活の描写だけでなく、インテグラルなスピリチュアリティの実践者としての、思想的な瞑想が紹介されている。また、Integral Instituteの設立に向けた準備活動は、ちょうどこのころに開始されている。最終稿では削除されたが、“One Taste”の初稿段階では、Integral Instituteの設立活動のなかでまとめられた資料等も含まれていたという。

A theory of everything: An integral vision for business, politics, science and spirituality (2000)

*訳題 『万物の理論:ビジネス・政治・科学からスピリチュアリティまで』

この頃、ウィルバーは、“Spiral Dynamics”(SD)の著者であるDon Beck博士の訪問を受ける。インテグラル思想をいかにして普及するかということは、ウィルバーの関心事のひとつであったが、SDの簡潔化されたモデルは、そうした課題を克服するための重要なヒントをあたえてくれるものであることが理解された。“A theory of Everything”は、“A Brief History of Everything”と同様、入門書として執筆された作品であるが、ここでは、SDの重要概念である「価値の発達」が、インテグラル思想を紹介するための方途として、援用されている。

Integral psychology: Consciousness, spirit, psychology, therapy (2000) 未訳

第4期(“Wilber-Four”)において、ウィルバーのインテグラル思想は複雑化したが、それにあわせて、個人の意識のモデルも、また、複雑化することになった。こうした状況のなか、必然的に、多くの研究者は、そうした理論的な進展を把握することができなくなり、結果として、それらを簡潔に整理した解説が必要とされることになる。この著作は、そうした状況に要請にこたえるために、教科書として“Waves, Streams, States, and Self”というタイトルで書きすすめられていたものをまとめたものである。

Boomeritis: A novel that will set you free. (2002) 未訳

ウィルバーのはじめての小説作品。第2時世界大戦後に社会的に蔓延した重度の「自己中心性」(narcissism)を痛烈に批判した作品。とりわけ、団塊の世代を蝕むこうした傾向をウィルバーは、“Boomeritis”と呼称している。尚、この作品において、ウィルバーは、脚注を、作品そのものではなく、出版社のHPに掲載するという奇抜な手法を採用している。

The simple feeling of being: Embracing Your True Nature. (2004)

*訳題 『存在というシンプルな感覚』

過去の作品からの抜粋により構成されている作品。ウィルバーの著作においては、理論的な議論とともに、詩的な瞑想が重要な位置を占めるが、この作品では、これまでの著作に掲載されたそうした文章がまとめられている。

第4期の思想的特徴についてのウィルバー自身の詳細なコメントは、下記のURLを参照していただきたい。

http://wilber.shambhala.com/html/books/cowokev7_intro.cfm/

第5期

第5期(“Wilber-Five”)の作品は、先ず、HP上に論文というかたちで発表された(Excerpt A〜G)。Wilber-Fiveは、Wilber-Fourから、さらに画期的な発展を遂げており、これらの論文が最終的にひとつの著作としてまとめられることが待望されている。それらの論文は、いずれも、下記のURLで無料ダウンロードできるので、参照していただきたい。

http://wilber.shambhala.com/index.cfm/

上記の論文の発表後、ウィルバーは数冊の書籍作品を発表している。これらの作品は、第5期の研究成果を採りいれたもので、読者は、ウィルバーのインテグラル思想がこれまで以上に流動的なものとして構想されていることに気づくであろう。

Integral Spirituality: A Startling New Role for Religion in the Modern and Postmodern World. Shambhala, 2006.

Wilber-Fiveの特徴のひとつは、意識構造(Stages)と意識状態(States)の関係に注目して、意識進化の枠組を構築したことであろう。歴史のなかで進化をする意識構造と人間の生得的な能力としてあたえられている意識状態とのあいだに成立する相互関係を整理することをとおして、霊性(スピリチュアリティ)と形容される人間の営みに関与する重要な要因を照明することをこころみた作品である。

The Integral Vision: A Very Short Introduction to the Revolutionary Integral Approach to Life, God, the Universe, and Everything. Shambhala, 2007.

インテグラル思想の概要を紹介するために、一般向けの配布資料として執筆された作品。これまでの著作とは異なり、色彩豊かな仕立てとなっている。

Integral Life Practice: How to Design Your Own Training Program for Body, Mind, and Spirit (with Terry Patten, Adam Leonard, and Marco Morelli). Integral Books, 2008.

Integral Instituteで開発した自己成長のための統合的実践の方法体系であるIntegral Life Practice(ILP)の解説書。