ウエブ・サイト紹介 第1回 

鈴木 規夫

 あらゆる領域においてそうであるように、今日、トランスパーソナル研究の領域においても、インターネットの重要性は、ますます高まってきています。実際、数々のトランスパーソナル領域の関係者が、内容的に充実したウエブ・サイトを運営しています。そこには、この領域の代表的研究者たちによる、書きあげられたばかりの論文が多数掲載されており、わたしたちは、それらを無料で読むことができるのです。ここでは、そうしたウエブ・サイトをご紹介していきます。


MuseLetter: A Monthly Exploration of Cultural Renewal

http://www.museletter.com/index.html


このウエブ・サイトは、New College of California(http://www.newcollege.edu/)の教員であるリチャード・ハインバーグ(Richard Heinberg)の主催するものである。ハインバーグの研究は、人間の意識を共同体の構造との関係性のなかでとらえようとするものである。これは、トランスパーソナル研究の重要な領域のひとつである、個人(micro-cosmos)と集団(macro-cosmos)のダイナミックな関係性の探求という主題を実践するものであるといえるだろう(トランスパーソナル・エコロジーといわれる研究領域の存在が象徴するように、こうしたmicro-cosmosとmacro-cosmosの関係性の探求は、トランスパーソナル思想の中心的な潮流のひとつである)。ハインバーグの研究をとりわけ価値あるものとするのは、この研究者が、人類文明におけるエネルギーの重要性を誰よりも的確に把握していることである。ハインバーグの代表作(The Party's Over: Oil, War, and the Fate of Industrial Societies. New Society Publishers, March 2003)の要旨をご紹介しよう。


われわれの生存するこの惑星は、基本的に、外部との物質資源の交換をしない閉鎖システム(closed system)である(例外としては、たとえば、隕石の落下によりもたらされるものがあげられる)。これは、すなわち、この惑星に存在する資源が有限であるということを意味する。そして、このことは、資源の消費が、植物による光合成を基盤として展開する生態系による資源再生を圧倒するかたちで行われるならば、不可避的に資源の枯渇をもたらすことになることを意味する。


現代において、人類の集合意識を支配する大量消費主義は、こうした資源の有限性という惑星の根本原則を無視したうえで成立している思想であるために、長期的には持続不可能なものである。ただ、これまでは、この惑星のサイズに比較して、文明の規模がまだ小さなものであったために、大量消費主義の破壊性は壊滅的な症状として露呈することは回避されてきた。しかし、東西帝国間の冷戦終焉後、こうした大量消費主義が全惑星的に展開されるようになるなかで、その破壊的な影響は、惑星の再生・浄化の機能を圧倒するものとなり、さまざまなかたちで明らかなものとなりつつある。そのひとつが、現在、マスメディアでも採りあげられはじめている化石燃料の枯渇という問題である。


今後、世界的に化石燃料の需要はますます増大しつづけることになるが、この数年のうちに供給がそれに対応することができなくなることが予想されている(最近の石油価格の高騰に見られるように、これはすでに現実のこととなっているといえるかもしれない)。あらゆる生産への努力にもかかわらず、もはや化石燃料(特に石油燃料)の生産量を増大することのできない状況を「ピーク・オイル」(“peak-oil”)と呼ぶが、それは、すでに、われわれの眼前において現実となりつつある。そして、こうしたピーク・ピリオドが続いた後(専門家は10〜20年間としている)、世界の石油燃料の生産量の不可逆的な減退期が到来することになるのである。この惑星に埋蔵されている化石燃料は有限であり、大量に消費されつづければ、いずれそれは枯渇することになることは当然のことである(エネルギーを生産――探索・精製・輸送等の作業を含む――するためには、エネルギーの投資が必要とされる。そうした投資されるエネルギー量が、諸々の理由により、最終的に生産されるエネルギー量を上回るようになるとき、そのエネルギーは枯渇したと見なされることになることを留意されたい)。


そうした状況が到来するとき、人類は、大きな困難と対峙することになるとハインバーグはいう。現在、地球上には、約60億の人間が存在しているが、そのうちの約40億の生命は、化石燃料により支えられているものである。つまり、現代文明の人口収容能力は、ふんだんな化石燃料の供給があって可能となっているものなのである。今後も世界の人類人口は増加しつづけるが(2025年頃には80臆に達するともいわれている)、それは、残念なことに、化石燃料枯渇の時期と重なることになる。今世紀において人類が対峙する困難とは、現代文明の驚異的な人口収容能力を可能としてきた資源が枯渇に向かうなかで、世界的な人口増加という現実と直面しなければならないことなのである。


ハインバーグによれば、こうした状況において、人類には、ふたつの「選択肢」があたえられているという。ひとつは、人口の大量減少(“die-off”)、そして、もうひとつは、人口の大量絶滅(“die-out”)である。いうまでもなく、実際には、われわれには、そうした選択肢を選択することを拒否する権利はあたえられていない。われわれにあたえられているのは、この惑星に消費生物(“consumer”)として存在するということが構造的に突きつけるそれらの選択肢をいかにして選択するかという権利である。ハインバーグのいうように、われわれは、残存する資源をめぐって闘争をすることもできるし、また、協調して解決策を模索することもできる。そこにおいて問題となるのは、成熟した責任(response-ability)をもって現実と直面する人類の能力なのである。


「トランスパーソナル」というこころみは、「個」(パーソナル)を超えるという意味を持つものであるが、そこには、大まかにわけて、垂直的と水平的というふたつの方向性の意識変容のありかたが示唆されている。人間は、垂直的な意識変容をとおして、意識の深層領域を認識し、そして、水平的な意識拡張をとおして、同時代をともにする生命とのつながりを認識する。トランスパーソナルという思想を実践していくにあたり、このふたつの要素の価値を認識し、そして、それらを統合していくことは、たいへん重要なことであるといえる。真の意味でトランスパーソナル思想を実践するにあたり、われわれは、「魂」や「霊」といわれる深層領域を探求できるだけでなく、時代がつきつける現実を直視し、協調してそこに存在する困難をのりこえていく努力をしていかなければならないのである。


現代という危機の時代において、トランスパーソナル思想を実践するにあたり、果たしてどのようなかたちでこの課題に取り組んでいくことができるのか――こうした問題と真摯に取り組んでいくうえで、ハインバーグの視点は非常に価値のあるものとなるであろう。このウエブ・サイトには膨大な良質の論文が掲載されている。ぜひ参考にしていただきたい。