人間の深層領域の能力の発達(Capacity Evolution)について

ザック・スミス 著
千葉 絵里 訳
鈴木 規夫 監修

本稿の元となった原文の掲載元であるインターコネクションズ(http://ikan.biz/)は、インテグラル・ジャパンの関係会社であり、国内で唯一、インテグラル理論を基盤としたコンサルティング・コーチング・アセスメントなどのサービスを法人のお客様向けに提供しています。

「人間の深層領域の能力の発達(Capacity Evolution)について」はインターコネクションズの共同経営者の一人である、ザック・スミス(Zach Smith)のブログ(Capacity Evolution Blog)を翻訳したもので、インテグラル・ジャパンのメールマガジンにて2008年11月より不定期連載しています。

インテグラル・ジャパンでは、今後、インターコネクションズとの協力関係を一層強化し、サービスの拡充を図っていく予定です(千葉)。

原文は、こちらで読めます。 http://ikan.biz/blog/capacity-evolution/

 

人間の深層領域の能力の発達(Capacity Evolution)について

人間の行動を決めるのは、人間のあり方(存在、being)です。どういう選択をし、どういう行動をするかは、自分を取り巻く世界にいかに関わるかという能力と密接に結びついています。この能力の大部分は、世界をどう見るかという「レンズ」によるところが大きいのです。この「レンズ」は、「ものの見方」「メンタル・モデル」「世界観」、あるいは発達心理学の用語では「行動論理」と、さまざまな名前で呼ばれています。「行動論理」は、文字通り、行動の背後にある論理のことです。

人生を歩み、世界を経験し、困難に直面するとき、人間は当たり前のように、その時確立している行動論理に従って世界と関わります。私たちは、誕生と同時にこの行動論理の発達の道を歩み始め、生涯にわたり、世界観を発展させる可能性を持つのです。人間の殆どが通過する明確な発達段階には、次のようなものが挙げられます。

:Opportunist(他者利用型段階・衝動的段階)

この段階では、人間は自らの緊急の必要を満たすことを求めるオポチュニストです。例えば、材木が必要なら、木を切り倒します。 詳細>>

G :Conformist(体制順応型段階・神話的合理性段階)

この段階では、人間はしばしば、社会規範、仲間からのプレッシャー、そしてグループの意志に従います。材木の喩えを用いると、他者が何をどうしているか次第で、材木が集まるかどうかが決まります。 詳細>>

I :Expert(専門家型段階・前期合理性段階)

この段階では、専門的な技術や知識を求め、尊重します。「正しい方法」を信奉し、「正しい方法」に忠実であろうとします。論理と秩序に高い価値を置きます。例えて言えば、樹木を管理するために官僚制を発達させ、材木を集めるための細かいルールを決めます。 詳細>>

T :Achiever(目的実現型段階・後記合理性段階)

この段階では、複数の視点に価値があることを認め、自分の目的・目標を達成するために、複数の視点の整合を取ろうとします。自らの手で何かを生み出し、創造的で効果を上げ、成功を収める自分の能力を自覚し、それに満足を覚えます。思考の形態は往々にして直線的です。例えて言えば、森林や樹木の効用や管理手法について、徹底的な調査研究を行います。森林管理の短期的・中期的な計画目標が設定されます。 詳細>>

この後の段階の行動論理も存在します。後期の発達段階にある行動論理は、それより前の段階の行動論理よりも「優れている」というわけではありません。後期の発達段階にある行動論理は、単に視点の拡大、深まり、延長を意味しています。今日、より持続可能な思考と行動に移行すべきだと、パラダイム・シフトが求められています。興味深いことですが、これは下記のような行動論理に向けて、ものの見方をシフトさせていくことが求められていると言ってよいでしょう。

H :Relativist(価値相対主義型段階・前期ヴィジョン・ロジック段階)

この段階では、世界は相互に関連しあっていると考え、平等主義的・相対主義的なものの見方をします。あらゆる視点に、優れた面があると考えます。全ての声に耳を傾けなければなりません。直線的でない、システム思考が可能になります。例えて言えば、森林の本質的な価値、効用、生態系における価値を全て検討する必要があります。 
詳細>>

A :Strategist(戦略型段階・中期ヴィジョン・ロジック段階)

この段階では、指導原理(guiding principle)に基づいて、戦略と行動を組織化し始めます。指導原理は、コンテクストによって変わります。喩えを用いれば、生態系に十分配慮した行動と理解が可能になります。森林や樹木に目を向けるばかりでなく、森林システムとバイオ・リージョンのバリュー・チェーンの全ステークホルダーを念頭に置いた行動を志向します。(詳細:翻訳中)

U :Alchemist(錬金術型段階・後期ヴィジョン・ロジック段階)

「自己」の概念が変容・拡大し、システム的に関連しあう関係性とダイナミクスへの気づきにより、深いプロセスへの繊細なつながりを持ち始めることが可能になります。また、どうやってその深いプロセスに影響を与えることができるのかという洞察を得ることも可能になります。例えていうと、樹木、森林、バイオ・リージョン、生物圏及びその構成要素は、崩壊し、相互作用し、創発する複雑な概念・ダイナミクスであり、その中に一貫性とつながりを見出そうとします。一貫性とつながりという観点から、意思決定を行い、行動が生まれます。(詳細:翻訳中)

O :Unitive(前期トランスパーソナル段階)

一であり多であることに満足しており、自己に目覚めた「触媒」であることは、この段階の人に適しているかもしれないし、適していないかもしれません。この段階の行動論理に重心がある人は、その瞬間瞬間に必要とされるものになります。ユニティブ段階の視点においては、世界の本質的なあり方がその単純さにおいても複雑さにおいても完全に理解され、瞬間瞬間に創発するという世界の本質が了解されます。絶えることなく生まれ、進化していく宇宙に他ならない樹木は、存在の全体性を現しています。なぜなら、樹木は、紙、おもちゃ、蟻や鳥の住処、肺、熱、煙、怒りや愛という様々なものに変容するからです。 (詳細:翻訳中)

 

行動論理の発達の面白いところは、それがソフトウェアの更新のようなもの だ、ということです。即ち、各段階は、その前の段階の機能を含み、それに何 かを付けくわえている、ということです。もうひとつの考え方としては、行動論理の発達は、山に登るようなものだとも言えます。高く登れば登るほど、多くのものが見えるようになります。過去において経験された行動論理は、私たちの経験と知識の一部でありつづけます。また、その行動論理がどのような働きをするものであるかを理解すれることができれば、前の段階の行動論理を(客観的に)振り返ることができます。中学だったころを考えてみてください。皆さんは、多分、当時の自分のものの見方に立ち戻りたいとは思わないでしょうが、当時、自分が世界をどう見ていたかということを説明することはできるでしょう。また、ティーンエイジャーのような振る舞いをする人を見分けることができるでしょう。そして、彼らがどういうことを経験しているのかを共感的に理解し、また、自分自身がそうした世界観を乗り越えていることを認識することができるでしょう。

行動論理で今ひとつ興味深い点は、ストレスやトラウマのもとでは、前の段階の行動論理に退行してしまうことがある、ということです。さまざまな本や映画で採りあげられている、幼児期への退行と似たようなことが起こるのです。
余りにも大きなストレスにさらされると、人間は機能停止状態に陥ります。重要な顧客や上司の前でプレゼンテーションをする時、あるいは同様にストレスのかかる状況で、頭が真っ白になってしまった(少なくとも、ベストの状態で
はなくなってしまった)というようなことは、皆さんも覚えがあるでしょう。ストレスに押しつぶされるとこういう状況になります。長引くストレス、あるいは非常に強いストレス(例えば、アメリカの同時多発テロ事件など)は、私たちの世界観にも同様の影響をあたえ、コミュニティ全体、ひいては国家を変えてしまうことがあります。逆に、もっと向上したいという気持ちがあり、適切な支援と挑戦できる環境があたえられれば、複雑性・混沌・不確実性に対する対応能力を増した世界観に向けて進化することが可能になります。上記のように、後期の行動論理は、それまでの段階の行動論理と比べると、ものの見方・感じ方、そして認識のあり方の拡大・延長・深化であるといえます。もう一度、自分が中学生だったときを振り返ってください。そして、今の自分自身を見つめてみてください。皆さんは多分、中学生のときよりも、自分の経験について更に広がりと深みのある視点をもち、長期的な観点から考えることが可能になっているに違いありません。これは、皆さんの意識の変化、行動論理の変化を端的に表していると思います。

行動論理の発達の仕方は、どの個人でも、どの組織でも、基本的には同じであることが、調査研究の結果わかっています。言葉を変えて言えば、私たちの成長と経験の中味自体は違っていても、私たちの経験を解釈する「ものの見方」の構造は常に極めて似通っているのです。子どもから思春期を経て成人へと発達を遂げるのと同様、私たちは大人になってもこの発達の道を歩み続けます。他者への同調から専門性に基づく世界観、あるいはよりT型(目的実現型段階・後期合理性段階)の世界観へ向けて、自分が進んできたことを考えてみてください。私にも経験がありますし、皆さんもきっと、その歴史をお持ちだろうと思います。

行動論理と発達理論に関して更に知りたい方は、スザンヌ・クック・グロイター博士(Dr. Susanne Cook-Greuter)ロバート・キーガン博士(Dr. Robert Kegan)の著作を読むことをお薦めします。彼らの研究、学問、そして著作は非常に該博で識見に富んでいます。弊社インターコネクションズは、人間の深層能力の研究と実践を行っていくにあたり、彼らの研究を基盤としています。

トップ>資料室>人間の深層領域の能力の発達(Capacity Evolution)について