インテグラルとは何か?


何が提供されるのか?

わたしたちのもとには、しばしば、次のような質問が寄せられます。

  • 「インテグラル」というのは、どのようなものなのですか?
  • 「インテグラル」というのは、思想や哲学の一種なのですか?
  • 「インテグラル」というのは、具体的な実践の方法なのですか?

「インテグラル」が提供するものには、実際には、下記の3つがあると理解していただけるといいでしょう。

  • 人間・組織・社会・世界を統合的にとらえるための新しいフレームワーク(理論)――「インテグラル理論」(Integral Theory)
  • その理論を応用して、個人の成長・発達を促進するための実践法――「インテグラル・ライフ・プラクティス」(Integral Life Practice)
  • その理論を応用して、現代が抱える課題や問題を解決するための実践法――「インテグラル・アプローチ」(Integral Approach)

インテグラル理論は、人間・組織・社会・世界を理解するための包括的な地図であると言い換えることができます。こうした地図を習得することにより、様々な課題や主題にとりくむ際、特定の限定的な専門的・理論的な立場にとらわれることなく、包括的な視野から対応することが可能となります。

ただ、このフレームワークの全体像を理解し応用していくためには、知識としての習得だけでなく、自身の人格的な成長が必要不可欠となります。発達心理学の調査・研究が証明するように、人間には発達段階があり、段階ごとに認識や理解できる範囲が限定されてしまいます。そのために、ある程度以上の発達段階に到達しないと、理論の真髄を体感的に理解して、それを効果的に活用することができなくなります。特に、現代社会が抱える複雑な問題を解決するためには、単に理論を習得するだけでなく、刻々と変化する状況のただなかでそれを的確に応用するための諸々の人格的能力が必須となるのです。

こうした自己成長の要求に対応するために、インテグラル・ライフ・プラクティス(ILP)というプログラムが用意されています。ILPは、インテグラル理論をもとに構成された、人間の人格が内包する主要な側面(要素)を包括的に治癒・発達させることを目的とするプログラムです。今日、人間の成長の促進を目的とする各種の研修や講座が存在していますが、これほどに包括的であり、また、確実な理論的基盤をそなえたプログラムは、存在しないといえるでしょう。

また、今日、存在する多くのセミナーやセラピーは、一時的な高揚感や充足感をもたらすことはありますが、個人の人格的能力の持続的な変化・成長をもたらすことは稀です。真の成長を達成するには、日常生活のなかで、継続的な実践にとりくむことが必須となります。この支援をしていくことが、ILPの特徴にもなっています。

また、インテグラル理論は、人格の成長だけでなく、リーダーシップの開発や組織文化の変革・成長等、日常の組織活動の領域における課題を克服するためにも適用されています。また、現代社会が抱える諸々の集合的な課題や問題――例えば、規範の崩壊・教育の荒廃・医療の問題・自然資源の枯渇・自然環境の破壊・国家間の衝突――にたいしてもインテグラル理論を基盤としたとりくみがこころみられています。

このように、インテグラル理論を応用して、各種の課題・問題の解明・解決にとりくむことを、インテグラル・アプローチと呼んでいます。Integral Japanでは、今後、現代社会が直面する主要な課題・問題のいくつかを採りあげて、それらの対応するための実践法を提供していきたいと思っています。

成り立ち

インテグラル理論(思想)は、アメリカ合衆国の思想家・実践家であるケン・ウィルバー(KW)によりまとめあげられたものです。ウィルバーは、独学で自然科学と人文科学のあらゆる領域を網羅的に習得し、また、西洋心理学の諸流派の研究と実践、そして、禅をはじめとする、東西の伝統的な修行体系の継続的な実践にとりくんできました。これらの膨大な知識と体験をもとにして、多様な専門領域の洞察を綜合的にまとめあげたのが、インテグラル理論であり、また、その実践形態であるILPをはじめとするインテグラル・アプローチなのです。

こうした統合にとりくむにあたり、KWは、先ず、各専門領域で研究者・実践者により合意されている事項に着目しました。いうまでもなく、各領域においては、諸問題をめぐる研究者間の見解の相違が存在しており、それについての議論が日々くりひろげられています。しかし、また、各領域においては、基本的に全ての関係者が合意している事項も存在しています。KWは、統合のこころみにおいては、各領域におけるこうした合意事項を抽出して、それらを相補的に関連づけることを基本的な方法として採用したのです。これにより、KWは、わたしたちに各領域の提示する洞察を他領域の基準にもとづいて解釈するのではなく、あくまでもそれぞれの専門性を尊重するかたちで包括的に理解することを可能としたのです。

一般的に、個人がつくりあげた理論と実践というのは、独善的になりがちであり、また、正統な学術団体からは無視される傾向にあります。こうした危険性に対応するために、KWは、各専門領域の代表的な研究者の対話と協働の空間として、インテグラル研究所(Integral Institute・後にIntegral Lifeと改称)を設立して、インテグラル理論の継続的な批判的検証と向上にとりくんでいます。

こうしたとりくみの結果として、アメリカ合衆国においては、インテグラル理論は、徐々に市民権を確立することに成功し、複数の正当な大学院のプログラム として提供されはじめています。例えば、経営学の権威的存在であるMIT(Massachusetts Institute of Technology)のピーター・センゲ博士もそのプログラムにたいしてエールを送っています。また、ハーバード大学教育学大学院(Harvard Graduate School of Education)のロバート・キーガン博士は、ウィルバーのことを「東洋と西洋の叡智の文献の統合において、彼ほどの知性と感情の深さと広さをもって取り組んでいる人物はいない」と称しています。このように、アメリカ合衆国をはじめとして、英語圏を中心にして、各領域のフロントランナーにより注目されている理論がこのインテグラル理論なのです。